「もう限界」地域おこし協力隊で何が起きたのか...市は「あえてコメントしない」 本人が指摘する本当の問題点

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   「移住失敗」「もう限界、引っ越します」――。東京から四国地方の山間部に地域おこし協力隊として移住した男性のYouTube動画がSNSで大きな注目を集めた。絶えない住民トラブル、持病の悪化、被災による住居の水没があったとし、移住先から別の地域に引っ越すまでの経緯を説明した動画だ。

   地域のある団体と関係性が悪化したことが発端だという。しかし団体の代表らは、動画での発言について「言っていない」「ニュアンスが違う」などとJ-CASTニュースの取材に答える。移住先の自治体の担当者も「事実の部分もあり、事実でない部分もある」と取材に答えた。

   動画は複数のメディアにも取り上げられ、反響を呼んだ。市は一連の騒動について「市が行動をおこすことで、再燃して、地域に、より悪いイメージがつく可能性がございますこと、地域での対立を生まないためにも、『あえてコメントしない』選択をしております」と回答している。

   一体何が起こっているのか。動画の投稿者、団体の代表ら、自治体側の三者にそれぞれ詳しい話を聞いた。

  • (写真はイメージ)
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  • インタビューに応じた団体の代表者側の2人
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  • インタビューに応じた団体の代表者側の2人

「村社会は恐ろしい」の声

   2022年12月中旬、あるYouTubeチャンネルに1本の動画が投稿された。

   絶えない住民トラブル、持病の悪化、被災による住居の水没――という経緯を説明した動画は、23年5月19日までに400万回以上再生され、視聴者からは「村社会は恐ろしい」「田舎は怖い」などの声が寄せられた。

   動画によれば、次のような具体的な経緯があったという。

   四国の山間部にある地域に地域おこし協力隊として着任した男性は、東京から一家で移住。「フリーミッション型で活動の2割を地域活動に充てるというもの」が募集要件だったという。

   地域おこし協力隊とは、人口減少や高齢化などが進む地方に都市部の人材などが移住し、地域力の維持や強化を図っていくことを目的にした制度だ。

   2割の地域活動の部分が問題になったとし、「地域のある団体と関係性が劣悪になってしまった」と伝えている。

徐々に心が離れていった男性

   最初の数か月は団体の仕事を手伝っていた男性。(1)補助金を使った事業が何の改善もせず続いている(2)過去の協力隊員に事業の失敗を押し付けて地域から追い出している――という背景を知り、徐々に心が離れていったという。

   活動日程の連絡が来なくなった日を境に、男性もその仕事から離れた。その後、数か月ほど経過した8月、会議室に呼ばれた男性は、団体の代表を含んだ4人から次のように言われたという。

「我々の活動に協力しないなら協力隊を辞めてもらう。協力するか辞めるか選べ」
「君のような人がいると次の協力隊が我々の言うことを聞かなくなる」
「君の存在はこの地域の何のためにもなっていない」

   幾つかの仕事を地域活動として認めてもらえないかとするも、「我々が地域の代表だから団体の活動以外は地域活動と認めない」と拒否された。男性は「今までの協力隊の人たちの心を病ませ追い出しなんのためにもなっていない事業を私は手伝えない」と思わず反論してしまったと振り返っている。

「その方々がきっかけかは定かではありませんが、そこから私に対する嫌がらせのようなことの頻度が増え、不眠になり体調を崩し、完治していた喘息が再発し、呼吸困難で救急搬送されてしまいました」

   医師からはストレス性のものだと説明された。男性は、落ち着いて子育てができない、妻も産後間も無く余裕がないという理由から、他の地域に引っ越すことを決意したという。

   新たな移住先に向けて引っ越しの準備を進める中、男性ら家族が住む集合住宅で火災が発生し、消火活動によって家具などが水没してしまったという。こうした経緯を説明した男性は、動画の最後で「ここでの失敗をいつか良かったこととして思い出せるように、新たな場所で精いっぱい頑張ります」と述べている。

   男性は22年12月下旬、嫌がらせの内容をJ-CASTニュースの取材に明かした。団体のメンバーから教わった方法に沿って野焼きを行うと、自分だけ通報されたと話す。また、近所の敷地に農具が捨てられており、男性が捨てたのではないかと注意されたという。

   動画で言及された団体の代表は、どのように考えているのか。

動画に対する団体側の見解

   2023年2月中旬、団体の代表を含む3人がJ-CASTニュースの取材に応じた。8月に開かれた会議で「君の存在はこの地域の何のためにもなっていない」などと発言したと、動画で言及された4人のうちの3人だ。

   1人は、男性について「4月頃から我々の作業に参加しなくなったんですけど、その理由は分からないんですよ。突然来なくなって」と話す。

   8月に行われた会議までの約4か月間、男性とは全く話していないという。男性ら家族が新しい赤ちゃんを迎える時期と重なっていたこともあり、団体側から連絡するという対応は取らなかったとしている。

   動画で言及された会議での発言に対しては、どのように考えているのか。

   「我々の活動に協力しないなら協力隊を辞めてもらう」という発言に対し、3人は「我々の仕事に参加しないなら、あなたは私たちの会には必要ないということになりますよ」と言ったが、協力隊を辞めてもらうとは言っていないと主張した。

   そもそも団体側には協力隊を辞めさせる権利はないとし、会議の最後では「10日に1日でも、私たちと一緒に仕事できませんか」と提案したと話す。しかし、それは男性に拒否されたという。

   「君のような人がいると次の協力隊が我々の言うことを聞かなくなる」という発言については、ニュアンスは異なるけれども似たことは話したという。「我々の仕事に全然参加せずに、自分勝手なことをされて、次の人も同じようになったら我々も困るよ」という意図だったと説明している。

   3人は、男性の活動に対して疑問を抱いていた。協力隊の仕事場は公民館だが、男性は自宅で仕事をしていたため、活動内容が不透明だったという。また、男性のYouTube活動には地域の名前が出ていなかったといい、地域活性化に繋がっていないと指摘した。

「フリーミッションというけれど、全く何でも好きなことをやってもいいというわけではないし、地域の活性化という趣旨があるので、活動の8割もそのために行うと思うんです」

   「君の存在はこの地域の何のためにもなっていない」や「我々が地域の代表だから」という発言についても、3人は「言っていない」と否定している。

   野焼きによる通報や農具がばら撒かれていた件については、団体とは関係がないと3人は話す。

   1人は、今回の件について次のように話した。

「閉鎖的に『これせんかい』と言った覚えもないし、ある程度自由にやってもらっていました。私たちがそんなに悪いことしたんですかっていうのもありますよ」

   団体の事業が改善していないという動画の指摘は認めつつも、地域の特産品として育てたり、地域おこし協力隊が食べていけるようにしたりする目的で事業を行っていると説明している。

動画に対する自治体側の見解

   男性が移住していた自治体側はどのように考えているのか。

   男性が移住していた地域の支所の担当者は、動画の時系列に違う部分があると指摘する。動画では、8月の会議以降に嫌がらせの頻度が増えて救急搬送され、男性は他の地域に引っ越そうと決意したという流れだ。しかし担当者によれば、地域おこし協力隊を辞める旨は9月初めに伝えられ、その後男性が救急搬送されたと話す。

   動画で言及された会議の内容について、男性が移住していた地域の市は、「その会に、支所職員(編注:地域の支所の担当者)は、入っていませんので事実関係は不明です」とメールで回答。嫌がらせの頻度が増えたという内容についても、男性本人から聞いたことはないとした。

   過去の協力隊に事業の失敗を押し付けて地域から追い出したという内容については、「過去の協力隊員のうち、一部の隊員が、任期前に退任した事実はあります」としつつも、団体の仕事の責任をとって辞めたという認識はないとしている。

   住民間における地域活動に対する「認識の違い」が火種となり、地域おこし協力隊の活動に大きな隔たりができたことが問題だと考えているという。

「(男性が)任期途中で退任して、転出したことは非常に残念です。動画等については、地域に悪い印象を与えたと感じております。ネットでの反響が大きかった分、ここで市が行動をおこすことで、再燃して、地域に、より悪いイメージがつく可能性がございますこと、地域での対立を生まないためにも、『あえてコメントしない』選択をしております」

   今回の騒動の対応としては、地域住民を集めた集会で、地域おこし協力隊員の業務は市が直接指示すると説明したとし、また、隊員に対しこれまで以上に業務を具体的に説明することにしたとしている。

   2023年5月17日、支所の担当者によれば、市が今回の騒動について記者会見などを行ってはいないという。

行政側の管理不足を指摘

   団体の代表ら及び自治体側の考えに対し、男性はどのように考えているのか。

   男性によれば、取材に応じた団体の代表を含む3人は嫌がらせをしてきた人ではなく、別の人物によるものだったという。また、団体の代表らについて「(嫌がらせの内容を)多分あまり把握していなかったと思います」と話した。

   8月に行われた会議の「我々の活動に協力しないなら協力隊を辞めてもらう」という発言について、先述のとおり3人は「協力隊を辞めてもらうとは言っていない」と否定。しかし、男性は「はっきり言っていて、辞めるか続けるか選べと言われた」と団体側の回答を否定した。「協力隊を辞めてもらう」と言ったと断言している。

   また、3人が否定した「君の存在はこの地域の何のためにもなっていない」や「我々が地域の代表だから」という発言についても、男性は「言われました」と否定。会議の最後に「10日に1日でも、私たちと一緒に仕事できませんか」という提案があったことは事実とし、それは拒否したと話している。

   YouTube活動が地域活性化に繋がっていないという指摘に対しては、男性は戦略としてYouTubeでは地域名は出さなかったとし、新しく開設したインスタグラムでは名前を出していたという。

   地域の支所の担当者が指摘した時系列の違いについては、男性は「そうです」と指摘を認めた。救急搬送される前から地域おこし協力隊を辞めようとしていたという。住民トラブルが絶えなかったこと、子どもの教育環境的にも良くなかったことが、辞める理由だったという。

   今回の騒動について、男性は行政側の管理不足に問題があったと振り返る。男性の活動内容が不透明だったとする団体の代表らの指摘は認めつつも、こうした点についても支所側には伝えていたとしている。

   これに対し、地域の支所の担当者は、地域活動として男性の活動内容を認めていたものはあるとしつつ、市の見解としては「地域協力活動の2割は出来ていなかった」という認識だと取材に答えている。

   男性は取材に「僕みたいなやり方をしたら、田舎暮らしは上手くいかないと思いますね」とも振り返った。「地方公務員というルールで縛られている手前、ルールや規定を押し付けるやり方だとダメだと思います」

   「(田舎では)ルールとか事実というのは二の次なので、いかに相手の感情と上手く付き合うかというのが、すごく大事だなと思っています」と話す男性は、新しい移住先では人との付き合い方に気を付けているとした。

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