国際NGO「国境なき記者団」(RSF、本部・パリ)は2023年5月3日(現地時間)、恒例の「報道の自由度ランキング」の23年版を発表した。
アジア太平洋地域では、ニュージーランド(13位)、サモア(19位)、オーストラリア(27位)、台湾(35位)、トンガ(44位)、韓国(47位)などが上位にランクイン。日本は22年より3つ順位を上げたが、これらの国々よりも低い68位だった。「今年の驚きのひとつ」として紹介されたのが東ティモールで、22年から7つ順位を上げて10位にランクイン。アジア太平洋地域では最も高い順位だ。「アジアで最も新しい国」の何が評価されたのか。
引き続き記者クラブ、特定秘密保護法、クロスオーナーシップを問題視
RSFでは、専門家へのアンケートなどを通じて、180か国・地域の状況を「政治」「経済」「法律」「社会文化」「安全」の5つの観点から100点満点で評価。5つの平均値をランキング化している。
1位は7年連続でノルウェー。2位以降はアイルランド、デンマーク、スウェーデン、フィンランドと続き、上位を欧州勢が占めた。178位~180位はベトナム、中国、北朝鮮。ワースト3をアジア勢が占めた。
日本に関する説明は22年とほとんど変わらず、「安全」の項目に22年12月に日本外国特派員協会に爆破と記者の殺害を予告する電話があったことが書き加えられた程度だ。
総論で
「議会制民主主義国家である日本は、メディアの自由と多元主義の原則を掲げている。しかし、伝統、経済的利益、政治的圧力、男女の不平等などの重圧により、ジャーナリストが政府に説明責任を果たさせる役割を十分に果たせずにいる」
と指摘した上で、記者クラブ、特定秘密保護法、キー局と新聞社が互いの株を持ち合う「クロスオーナーシップ」の問題を列挙。ここ数年の状況を
「日本政府と企業は日常的に主流メディアの運営に圧力をかけており、その結果、汚職、セクハラ、健康問題(新型コロナ、放射能)、公害といった、敏感とみなされかねないテーマで激しい自己検閲が行われている」
「SNSでは、国粋主義者の集団が、政府を批判したり、福島原発事故による健康問題など『非愛国的』なテーマを取り上げたりするジャーナリストに対して日常的に嫌がらせを行っている」
などと説明した。
「大統領と首相という行政権の分担により、報道の自由の侵害を抑えることができた」
アジア太平洋地域で最も順位が高かった東ティモールは、ポルトガルの植民地支配やインドネシアによる統治を経て02年に独立。「アジアで最も新しい国」として知られる。
RSFの発表では、総論で
「この若い民主主義国家では、これまで業務に関連して投獄されたジャーナリストはいないが、2014年に採択されたメディア法はダモクレスの剣(編注:栄華の中にも危険が迫っていることを示す故事)のようにジャーナリストに垂れ下がり、自己検閲を促している」
と説明。「メディア法」に懸念を示す一方で、現時点ではどちらかと言えば前向きな書きぶりだ。「政治的背景」の欄では、
「独立国としての短い歴史の中で、大統領と首相という行政権の分担により、報道の自由の侵害を抑えることができた」
とも評価している。
国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルが14年に出した声明によると、メディア法では表現の自由や報道の自由の権利を明示的に認める一方で、ジャーナリストとして活動するためには、メディアで6か月間にわたってインターンを行い、報道協議会で認定を受けることを求めている。声明では、この条項について
「フリーランスのメディア関係者、市民ジャーナリスト、学生ジャーナリスト、ブロガーなどは、ジャーナリストとしての活動を禁止される可能性がある」
と懸念を表明している。
ただ、RSFの発表では報道協議会について前向きに評価している。東ティモールのジャーナリストは誹謗中傷を規定した刑法の規定の悪用に「脅かされている」として、
「2015年に設立された報道協議会は、そのメンバーの選出過程が透明性に欠けるとはいえ、ジャーナリストが関わる紛争の平和的解決を促進することを目的としている」
と説明している。
会見の公式レポートをそのまま載せ、会見に出て報酬を受け取る人がいる
ただ、インフラ面では脆弱(ぜいじゃく)さが目立つ。「経済的背景」の説明では、
「首都ディリ以外では(出版物の)印刷部数は非常に少ない。とりわけ識字率が低く、平均的な購買力に比べて新聞の価格が高く、全国への配達網がないことが原因だ。技術的な問題やインターネットにアクセスできないことが原因で、テレビやオンラインメディアの地方への普及は限られており、ラジオ以外のメディアを利用できない住民もいる。そのため、(首都以外ではラジオが)基本的な役割を担っている」
と説明している。
記者の訓練にも課題が残る。メディアの概況を説明する欄では
「報道評議会とジャーナリスト協会がトレーニングを行い、国連開発計画(UNDP)の支援を受けた独自のファクトチェック機関を持っている」
とあるものの、「社会文化的背景」では、次のように説明されている。
「記者会見の公式レポートをそのまま載せる編集者がいるほど、ヒエラルキーを重んじる文化がジャーナリズムに浸透している。記者会見に出て主催者から報酬を得ているケースも、まだある」
RSFの発表では、東ティモールの10位という結果の意義を
「一党独裁体制に関する『権力の報道の自由に対する主な障害だ』という指摘を裏付けるものだ。政治、経済、司法の各権力のバランスが取れたとき、報道の自由は十分に発揮できる」
と説明している。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)