慢性的な赤字が続いているJR久留里(くるり)線の一部区間のあり方について協議する会議の初回会合が2023年5月11日、千葉県君津市内で開かれた。
会議は、JR東日本が23年3月に「沿線地域の総合的な交通体系に関する議論」を行いたいとして、千葉県と君津市に対して設置を求めていた。ローカル線のあり方をめぐっては、国主導の「再構築協議会」制度を盛り込んだ改正地域公共交通活性化再生法が23年4月に成立したばかりで、23年秋に施行される見通し。それに先立って任意で協議が始まった形で、他のローカル線のあり方にとっても試金石になりそうだ。ただし、「再構築協議会」とは違って、結論を出す時期は定めないことにしており、議論の行方は見通しにくい状況だ。
100円稼ぐために1万9110円かかる
久留里線は房総半島の中央部を走り、木更津(木更津市)-上総亀山(君津市)間32.2キロを結ぶ。議論の俎上(そじょう)に上っているのは、その末端区間の久留里(君津市)-上総亀山間9.6キロだ。
鉄道路線のあり方を判断する基準のひとつが「輸送密度」だ。1日に1キロあたり何人を運んだかを示す指標で、久留里線全線の21年度の平均輸送密度は782人。JRが発足した1987年度は3126人で、75.0%減少している。久留里-上総亀山間に限れば、2021年度は55人。発足時の823人から93.3%減少した。
100円の収入を得るためにかかる経費を指す21年度の「営業係数」は、久留里線全線で1273円、久留里-上総亀山間が1万9110円。JR東日本管内では陸羽東線の鳴子温泉(宮城県大崎市)-最上(山形県最上町)間(2万0031円)に次ぐ水準だ。
JR東日本の説明資料では、君津市の生産年齢人口(15~64歳)が20年から45年にかけて38%減少するとして、
「主な利用者である通勤・通学でのご利用が今後さらに減少することも予想されます」
とも指摘している。
「(協議の)申し入れが来るのはやむなし」「自分自身なかなか迷いがある」
発足した会議の名称は「JR久留里線(久留里・上総亀山間)沿線地域交通検討会議」。千葉県、君津市、JR東日本、有識者、沿線3地区(久留里、松丘、亀山)住民代表らで構成されている。初回会合は、冒頭あいさつ以外は非公開で行われた。
閉会後に記者会見した座長の日本大学理工学部・藤井敬宏特任教授によると、出席した住民代表からは
「1編成に地区住民が2~3人しか乗ってないところを実際に見ている。そういった中では、この(協議の)申し入れが来るのはやむなしだろう」
「50~60年前の久留里線の中で蒸気機関車があって、トンネルを出てきたときの風景が、やはり心象風景として残っている。そういった鉄道を残してほしいという思いもあるが、利用者が減っている中で、地域の中の交通としてどう考えていいかといったところには、自分自身なかなか迷いがある」
といった声が出た。亀山ダムを抱える亀山地区の住民代表からは
「観光需要といったところに着目して、もう少し伸ばせる要素はないだろうか」
という指摘も出たという。ただ、
「地域の声を私達は全て代表しているものではない」
として、住民説明会を求める声も出たため、3地区で説明会を開いてJRが現状を説明し、認識の共有を図ることで合意した。
「いついつまでに結果を出してゴールを決めるというようなことは特に念頭にはなく」
改正地域公共交通活性化再生法による「再構築協議会」では、3年以内をめどに存廃やバス転換などの方針を打ち出すことになっている。一方で、千葉県の担当者によると、今回の会議は「いついつまでに結果を出してゴールを決めるというようなことは特に念頭にはなく、皆さんと協議を重ねていって...ということが重要」。特に期限は区切らないことにしている。説明会の日程は未定。説明会の結果を受けて2回目の会合の内容や日程を決めることにしている。
明確なゴールが明示的に設定されているわけではない、という立場で、廃線を含めた議論の方向性について問われたJR東日本の担当者は
「引き続き、この会議の中で皆様とともに議論をして、丁寧に進めて参りたい」
と述べるにとどめた。
藤井氏は「答えありきの検討ではなく、そこから答えをみんなで作っていくんだということで、意識の共有が図れた」と会合の意義を強調した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)