「ただでそんな美味しい話はない」
ファンが驚いたのは、周防さんが引き続きIP活用できる点だった。
VTuberが所属事務所と関係を解消する際、「引退」を選ぶケースは少なくない。関連して、"中の人"が別名義のVTuberとして再開する「転生」という業界用語がある。
例えばVTuberのChumuNoteさんは自らの転生を動画で公言している。事務所の解散を機に「名前と見た目を失った」ため、新しいキャラクターとして再デビューした。「過去の名前には僕から触れられない」と制限もあるという。ツイッターアカウントのみ「(会社ではなく)僕が権利を持っていた」として名義を変えて再利用している。
VTuberのIPは、事務所側が所有・管理するのが一般的な商慣習のようだ。VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバーは、「所属VTuberのキャラクターIP権利は当社に帰属」し、VTuberの活動は「当社から演者に対して貸与されるモーション・キャプチャーハードウェア/ソフトウエア、キャラクターアバター、及びYouTubeや Twitter等の配信プラットフォーム/SNSアカウントを用いて提供されています」と有価証券届出書に記載している。
キャラクターIPが競争優位の源泉と位置づけ、「付加価値の高いIPを自社で多数保有し、それらを活かした関連ビジネスを多面的に展開することにより、収益基盤の確立と消費者からの継続的な認知拡大を両立することが可能になる」としている。
競合の「にじさんじプロジェクト」を運営するANYCOLORも、「当社ではVTuberのイラスト、キャラクターを会社がデザイン・設定し、VTuberのIPを会社が保有しております。会社がIPを保有することで、IPを活用したコマース領域やプロモーション領域への展開のしやすさや、ライバーの高い活動継続率などといった安定的な事業体制につながっております」と有価証券報告書に記す。
こうした業界事情がある中、周防さんは「周防パトラの存在ももちろん消えはしません」「会社のご厚意で、チャンネルごと持っていけるようになりました。(動画の)アーカイブもそのままです。見た目もそのままです。衣装も持っていけます」と報告している。実現の背景も説明しており、「ただでそんな美味しい話というか、好き勝手はできないので買い取りをさせていただきました」とIP移転があったとした。譲受額は明かしていない。
ファンからは「正直『周防パトラ』のIPは無くなるだろうと覚悟してた」「独立もすごいが、権利を手放した運営がすごいな」「引退じゃなくて本当に良かった...」と驚きや安堵の声が広がっている。