「告発」を武器とする「暴露系インフルエンサー」が勢いを増している。企業の不正、著名人のプライベート、SNSで話題のトラブルを刺激的な切り口で紹介し、ファンを日々増やしている。
ターゲットにされた人は突然、SNS上で衆目にさらされる。行き過ぎた私刑で、活動休止に追い込まれた著名人もいる。誤情報が含まれているとして、法的措置を発表する企業もある。
特集の前回記事「『抜けられてよかった』逮捕された元暴露系ユーチューバーの懺悔 栄光から転落までの8年」では、元当事者の内省を報じた。今回は、暴露系インフルエンサーによる投稿の影響や法的問題点を詳報する。
「いじめ」「やりすぎ」暴露系インフルエンサーによる被害
暴露系インフルエンサーは主に、動画投稿サイトやツイッターなどで炎上騒動や話題のネタを発信している。公益性の高い「告発」もある。
ツイッターユーザーの滝沢ガレソ氏は、人気外食チェーン店で新人に対するハラスメントや食材の不適切な管理があったと発信した。運営会社は数日後、社内基準に即した食材管理と提供方法が一部徹底されていないことが確認されたとして、公式サイトで謝罪。コンプライアンスの観点からも不適切な言動があったとしている。
一方で標的にされた人々が、誹謗中傷やデマ、営業妨害などに悩まされることもある。
22年7月ごろには、暴露系ユーチューバーのガーシー氏にプライベート動画を無断公開された女性配信者が、突発性難聴を患い活動を休止したことがあった。暴露によって殺害予告や誹謗中傷も寄せられ、ガーシー氏には「いじめ」「やりすぎ」など非難の声が寄せられた。
ツイッターアカウント「大学生のきしょいストーリー」は23年4月、人気女性格闘家のスパーリング動画の一部を切り取り、「素人相手にこれはヤバいだろ...」という投稿文で紹介した。しかし対戦相手もプロだった。女性格闘家は「事実と異なる内容」の投稿が拡散されているとして、弁護士に対応を依頼したことをツイッターで発表した。
企業が標的になることも
企業が狙われることもある。滝沢氏は、ある地域一帯の宿泊施設がイベントによって予約を取りづらい状況になった際に、「既に完了していた客の予約を『システムの不具合』名目で一方的にキャンセルし、宿泊料金を数十倍に跳ね上げる」などと紹介し、あるホテルの料金表を添付した。
投稿が拡散されると、ツイッターでは「潰れてしまえばいい」「グループの宿泊施設は今後一切使いません」などと受け止められた。グーグルマップの口コミなどにも、「一方的に謝罪もなくキャンセルした上で10倍に値上げ」「予約してもキャンセルされちゃうなら予約しない方がいいですよね?」と書き込まれた。
このホテルは、価格の変更はあったとしているが、宿泊者の予約を一方的にキャンセルしたなどの事実はないと公式サイトで発表。店舗への無言電話や、誹謗中傷及など営業妨害行為に対しては、「法律的な判断をすることも検討」していると発表した。
当時SNSでこの地域のホテルに無断で予約をキャンセルされたと訴えたユーザーの一人は、J-CASTニュースの取材に対し、暴露系インフルエンサーが紹介したところとは無関係な別のホテルの名を挙げていた。
社会に大きな影響を与える暴露系インフルエンサーに対し、ターゲットとされた人の中には法的措置を講じるなどと発表する人もいる。暴露系インフルエンサーは、どのような法的リスクを抱えているのか。
主に2つの法的リスク
ネット上の誹謗中傷問題などに詳しいインテグラル法律事務所の小沢一仁弁護士は4月20日の取材に、暴露系インフルエンサーの活動には大まかに2つの法的リスクがあると説明する。
「1つめは、個人情報を無断で公表するプライバシー権侵害の問題です。『表に出ていない私的な情報を暴露する』というスタイルで活動する暴露系インフルエンサーは、その大半がプライバシー権を侵害していると考えられます。そのうえで、情報の受け手側の『知る権利』や情報を発信する人の『表現の自由』等の保護よりも、暴露された人のプライバシー保護の方が求められると評価された場合は、このプライバシー権侵害は違法になります。ただし、暴露された側が有名人の方だった場合、法的措置に出るとかえって話題になってしまい、自身が悪かろうがそうでなかろうが、被害を拡大させてしまう可能性があるので、特段の行動に出ないこともあり得ます」
「2つめは名誉権侵害(名誉棄損)です。これは『事実』(編注:『真実』の意味ではなく、虚偽の内容も含む)を公に摘示し、人の社会的評価を低下させることで成立します。インフルエンサーの投稿には『誰誰がこんなことをやっていた』というような『事実』を公に摘示して、暴露された人の社会的評価を低下させる内容が多いと思われます。このような場合は名誉毀損の要件を満たします。しかし、名誉棄損にあたる投稿でも、違法性阻却事由の3要件(公共の利害に関する事実であること、もっぱら公益を図る目的であること、摘示した事実が真実であること)を満たせば、名誉毀損行為ではあるものの、違法ではなくなります(正当な行為になります)」
小沢氏の経験上、上記違法性阻却事由の3要件のうち、公共性と公益目的が否定されて違法だとされる事例はほとんどないという。そのため、ほぼ全ての名誉権侵害事件で焦点になるのは、投稿により摘示された事実の「真偽性」だとする。
タレコミに「誇張や歪曲、デマが入り込んでしまうことも」
暴露系インフルエンサーは、ツイッター上で拡散された愚痴や自身のダイレクトメッセージなどに寄せられた「タレコミ」を紹介することもある。滝沢氏は、先述の外食チェーンに関連するタレコミが複数寄せられたとしている。
小沢氏はインフルエンサーの投稿や配信には、タレコミを行った人物が最初から嘘をついているケースや、事実を誇張・歪曲して結果として嘘になっているケースが「それなりの割合で含まれていると考えられる」と話す。
実際に小沢氏は「インフルエンサーに虚偽の情報を載せられた」「インフルエンサーの配信中、タレコミを行った人物に虚偽情報を広められた」など、虚偽情報を広められた側の相談に応じてきた。そして、インフルエンサーにタレコミを行おうとした人の相談も受けたことがあるという。
「(暴露したい)相手のやっていることが許せないという理由でインフルエンサーにタレコミをしたいが問題はないかとの相談を、ひとりやふたりではなく、十人単位で受けてきました。ただ、相談者の多くは相手のしていることが一方的に相談者の権利を侵害するものだと主張するのですが、一般論として紛争が発生する過程には、程度の差はありますが、どちらにも一定の落ち度があることが多く、相手を憎むがあまり、自身にとって不都合な事実を隠していることもあります」
「また、事実関係に争いはなくても、その法的評価に争いが生じうるようなケースもあります。このような場合に、一方のみの視点から相手を公に糾弾することは、それ自体が違法行為になり得ます」
「さらに、仮に相手のしていることが違法な場合でも、過去の裁判所の判断に照らすと、慰謝料額が高くならず、相手に対して思うようなダメージを与えられないこともあります。そのような場合に『社会的制裁を加えたい』などとしてタレコミをしようとする人もいますが、そのときに感情が先走って、誇張や歪曲、デマが入り込んでしまうこともままあると思います」
【予告】連載の第四回は、暴露と向き合うメディアやネットユーザーに求められる点を、社会学者、ITジャーナリスト、弁護士とともに考えます。5月7日10時の公開を予定しています。