財務省は、防衛増税に熱心だ。
自民党内では、「防衛版ふるさと納税」など国への寄付を防衛力整備の財源に充てる意見がある。これに対し、鈴木俊一財務相は、2023年4月25日の閣議後記者会見で「特定の政策を予算外の収入で賄う場合、国会の予算審議などの観点からどう考えるか」「一部から多額の寄付があった場合、行政の公平性に疑念を持たれるようなことにならないか」と述べ、慎重な姿勢を示した。
あたかも国会議決がないかのようなミスリーディングな反論
防衛版ふるさと納税の場合、寄付者が国に寄付し、その金額を税額控除する方式になる。確かに、寄付は予算外であるが、税額控除では税法改正が必要なので国会議決が必要になる。予算も国会議決であり、税法も国会議決なので、国民からの目線で見れば同じだ。それなのに、財務省は予算審議でないという点だけを強調し、あたかも国会議決がないかのようなミスリーディングな反論をしている。また、防衛の便益は広く国民にもたらされるので、行政の公平性とは意味不明だ。
防衛力整備計画による5年間の防衛力整備に係る金額は43兆円程度とされており、その財源として、歳出カット、外為特会の利差益などとともに実施時期未定の防衛増税がある。
しかし、財源は他にもある。安倍晋三元首相は防衛国債を生前主張した。「道路や橋は次の世代にインフラを届ける為の建設国債が認められている。防衛予算は消耗費と言われるが間違っている。防衛予算は次の世代に祖国を残していく予算だ」と語っていた。防衛はインフラと同じで将来世代まで便益があるのだから、国債に相応しい。
事前の有事対応へは国債が相応しいのは自明
そもそも有事費用は国債で賄われるという歴史事実さえ押さえておけば、事前の有事対応へは国債が相応しいのは自明だ。
ドイツは防衛費GDP比2%のために1000億ユーロ(14.5兆円程度)の特別基金を創設したが、それは国債発行で賄った。これは、安倍元首相の防衛国債そのものだ。
国債に関連していえば、先進国では減債基金自体がかつてはあったが今では存在していないので、債務償還費の繰入れがない。となると、日本の予算では、歳出が債務償還費分、歳入はその同額の国債が、先進国から見れば余分に計上されている。その債務償還費の一般会計繰入れを特例法で停止し、それで基金を作れば、少なくともドイツと同じ特別基金ができる。しかも、これで増税なしになる。これは事実上防衛国債と同じだ。
また、外為特会の利差益は財源とするが評価益は使わない。評価益を使えば、これも増税なしになる。
これらの財源があるにもかかわらず、財務省が増税に固執するのは筆者にはさっぱり理解できない。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。