「Synthesizer V AI 重音テト」の持つUTAUとは異なる側面
――今回「Synthesizer V AI 重音テト」でとうとう商業ソフト化を果たします。なぜボーカロイドではなくDreamtonics(東京都千代田区)の音声合成ソフト「Synthesizer V」でのデビューになったのでしょうか。
小山乃「テトはUTAUでは今の音声素材で十分歌える、天井に届いている、これ以上のことはもうできないと思っていました。Synthesizer Vを初めて聞いたとき、それを超えるツールがでてきたとびっくりしました。『音声合成らしくない、人間そのものじゃん!』と」
エナメル「UTAUのテトとは全く別の滑らかに歌うテトなら出す意味がある、と感じました。
もちろん10年前はテトをボーカロイドにしたいという思いもありましたが、現在は多様な音声合成ソフトが登場し、選択肢が生まれました。そのなかでテトが進化できると感じられる形を選びました」
小山乃「後から知ったんですが、『Synthesizer V』を開発した華侃如(フア・カンル)さんはUTAU用の合成エンジン『Moresampler』を開発した方です。『Synthesizer V』はその知見を生かしたものだそうで、言わばUTAUの進化版。そこも運命だったのではないかと感じています」
――「Synthesizer V AI 重音テト」で公開された新ビジュアルのコンセプトやこだわりをお聞かせください。
小山乃「歌声がリアルなのでアニメっぽすぎない画風がいいと思い、イラストは坂内若さんにお願いしました。
若さんは前から素敵なイラストを描かれる方だと思っていて、とくに衣装の引き出しが豊富な方です。ビジュアルはキャラクターとして1番大事な要素なのですごく悩みましたが、今回は軍服とアイドルの掛け合わせでお願いしました。
こだわりとしては、私の中でテトは小悪魔っぽい印象があったので、パニエを白にすると天使っぽくなってしまうので、黒に変えてもらいました。テトらしい『ふふん!』とした得意げな表情も気に入っています」
エナメル「せっかく新しいエンジンで出すんだから別の要素も入れたいとも思いました。UTAUは黒っぽいデザインだけど、今回はグレー。シルエットにも違いを出したいと思い、だぼだぼとした服装だったのが、メリハリあるシルエットになりました。腰はきゅっとしているけど、スカートはふわっと広がっている。
一方、ピンクの共通点を持たせることでこれまでの雰囲気にも寄せています。UTAUとSynthesizer Vのデザインを並べると、よりお互いの共通点や関係性が分かると思います。
――アイドルの要素を加えたのは、なぜでしょうか?
小山乃「Synthesizer Vでのリリースが決まったとき、『本物になる』というイメージがあったのでちゃんとした服でステージに立たせてあげたいという思いがありました。今思えば最初から本物だと思うのですが、晴れ舞台に立たせてあげたいと考えていて、歌姫としてアイドルのような服が似合うのではないかと考えました」