ノンフィクション作家・中村淳彦氏の新著『同人AV女優 貧困女子とアダルト格差』(祥伝社)。「AV出演被害防止・救済法(AV新法)」の成立で業界が混乱する中、勢いを増しているという「同人AV」と呼ばれるジャンルに参入する女性らにインタビューした一冊だ。
「自らの意思で"息を吸うように売春"するZ世代」――。女性の貧困をテーマに執筆を続ける中村氏が取材の中で目撃したのは、そんな女性たちの姿だった。まえがきには「彼女たちは自分の意思で男性客を探し、合理的に稼げる方法を常に探していた」と書かれている。
こうした考えの背景にあるものは。J-CASTニュース編集部は、中村氏に詳しい話を聞いた。
Z世代にとって「AV新法はおそらくピンとこない法律」
大学在学中から20年以上、AVや風俗、介護、貧困などをテーマに執筆・取材を続けてきた中村氏。「Yahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞」にノミネートされた『東京貧困女子。』など多数の著作を刊行している。
Z世代は一般に1996年~2010年頃までに生まれた人のことを指す。その世代の女性について、中村氏は自らの取材経験から次のように話した。
中村氏:2016年にZ世代が20歳になりました。そこから彼女たちが風俗産業や売春の主役になって状況が変わった。記事や書籍では「息を吸うように売春している」と表現していますが、彼女たちは当たり前のように売春するし、風俗するし、同人AVに出演するし、パパ活をしている。
――そうなんですね。
中村氏:彼女たちより上の世代は「そういうことに抵抗がないの」とか「将来困るよ」といったニュアンスを言いがちなのですが、若い女性たちが普通に街娼行為をしている現状と合わせるとピンときません。上の世代のいう抵抗とか、将来困るという推測が彼女たちに当てはまる感じがしない。急激に女性の質が変貌しました。
新法で議論された「(プロダクションなどの)男が女性を騙して無理やりAV出演させる」「AV出演したら将来後悔する」という前提条件は、周回遅れという印象です。新法制定を牽引した人権団体や支援団体は、Z世代が出てきて女性に変化があったことをよく理解していない。一世代前の女性たちを意識しながら新法はできてしまいました。
AV新法は、出演強要などの被害を防ぐことを目的に制定された法律で、2022年6月15日に与野党の賛成多数で可決・成立した。しかし、業界関係者からは、仕事がなくなった、実態とは異なるなどの批判も上がっている。
中村氏:カラダを使って合理的に稼ぎたいZ世代の子たちにとって、女性を守るためというAV新法はおそらくピンとこない法律です。1月4月ルールと呼ばれる出演前の契約がとにかく面倒くさい。法律を守ると宣言している適正AVより、遵法意識が希薄な同人AVや売春のほうが合理的に稼げる。必然的に女性は適正よりも同人に流れていきます。
「楽で合理的に稼げることに対するモチベーション」
「推し活」の中でも、Z世代は「ホスト」にハマる女性が多いと中村氏は話す。
今回の著書『同人AV女優』にも、いわゆる「ホス狂い」になるZ世代の女性のエピソードが記されている。ホス狂いとは「ホストに没頭することを生活の最優先事項にする女性たちの総称」と説明されている。
中村氏:ホストは異常な金額がかかる。とても売春では稼げないぐらいのお金が必要な世界で、女性たちは必死にお金をつくりたがっている。楽で合理的に稼げることに対するモチベーションがすごい。2時間程度で撮影が終わる同人AVはそういう女性たちに選ばれています。
『同人AV女優』では、ホス狂いだけでなく、専業主婦、女子大生、元アイドル、奨学金を返済中の元適正AV女優と、様々な女性が同人AVに出演する経緯を語っています。
中村氏は日本の平均賃金が「安すぎる」、世代格差が著しいと指摘する。大学の授業料が高騰している一方、親世帯の平均収入が減っているため、そもそも大学に通うことが難しくなっているとして、次のように述べる。
中村氏:大学生が真面目にアルバイトをしても月5万円程度しか稼げない。親世代もお金がないので大学生の娘への経済的援助も限定的になる。女子大生たちが勉強するだけでなく、学費、生活費を稼げなきゃならなくなると計算が合わなくなる。「女を売る、カラダを売ることをした者から勉強する権利を与える」みたいな現状がある。10年ほど前から勉強をしたい真面目な女の子がカラダを売る、という異常な現象が起こっています。
――なるほど。
中村氏:大学生の貧困、それと世代格差が大前提にあります。大学進学を控えた高校生のときに風俗や売春をすることを覚悟する女性も多く、あらゆる性格や属性の女性たちがカラダを売ることを余儀なくされている。隠れてやる仕事なので、みんな不安や不満がある。同じ境遇で風俗や売春している女性たちがSNSで繋がって女子会をひらいている。
その女子会で誰かからホストに誘われたり、同人AVの存在を教えてもらったりしている。そうして「最初は学費のために風俗嬢になったけど、2年後にはホス狂いになりました」みたいなことが起こるのです。
Z世代の女性はホストに「限界までお金を作って全部使う」
中村氏:ホス狂いにしても、推し活にしても、Z世代の女性たちは限界までお金を作って全部使うことをしている。ホストブームは2018年にピークに達して、高止まりしている状況ですが、それ以前にはあまりなかった現象です。
――なぜ後先考えずにお金を使うようになったのでしょうか。
中村氏:ホストにかかるお金がどんどん上昇しています。円安による洋酒の値上がりだけでなく、ホス狂いの女性たちの競争の激化でホストに注ぎ込む金額の上限が桁違いになっている。売春で稼げる金額はせいぜい月200万円程度なのですが、ホス狂いの女性たちは月500万円、600万円という異常な金額を注ぎこんでいる。
――ホストクラブには、そこまでの金額が求められるんですね。
中村氏:「限界までどうやってお金を作るか」を考えると、短い時間で現金が稼げる同人AVや高単価の高級ソープは選択肢の1つで、いまは多くの女性が40代、50代の中年男性から「どうやってお金を引っ張るか」を考えています。嘘をついて金銭を出してもらう恋愛詐欺ですね。訴えられたら犯罪ですが、みんなそうならないことを前提に出会い系アプリや風俗店で詐欺することを目的に中年男性に近づいています。
――40代、50代の男性がZ世代の女性に狙われていると。
中村氏:40代、50代の生涯未婚率が約3割と高まりすぎています。淋しい中年男性が歴史的に過去にないレベルで存在して、そういう純粋な未婚男性を相手に恋愛詐欺を仕掛ける。女性たちは合理的に稼ぎたいので、LINEだけの関係で会わないでお金を払わせる恋愛詐欺が流行っている。彼女たちは未婚中年男性に近づいて好意的なLINEを送って、多額のお金を援助してもらいます。会うはお金の回収するときだけ、その足でホストクラブに向かう。膨大な人数の未婚中年男性が被害にあっています。
――ホス狂いになる理由は一体何なのでしょうか。
中村氏: どうしてこんな風になったのかと1つ言われていることは、ホス狂いの子は、趣味がない子がなるんですね。例えば、何か趣味がある子は、そういうところに走らないけれども、何も趣味がない子がたまたま行ったホストクラブで、本当に楽しくて刺激を受けたと言って、恋愛も関わってきて、みたいにハマっちゃうんですけど。何もなければないほどハマるらしいと言われています。
だから、そういう同じぐらいの世代の子で、生きていて何もないという子が他の世代よりも多いのかもしれないですね。
中村淳彦氏 プロフィール
なかむら・あつひこ ノンフィクション作家。大学在学中から20年以上、AVや風俗、介護、貧困などの現場でフィールドワークを行い、取材・執筆を続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『歌舞伎町と貧困女子』(宝島社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『ルポ 中年童貞』(幻冬舎)など多数。また、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)は、劇場映画化されている。2023年3月1日に『同人AV女優 貧困女子とアダルト格差』(祥伝社)を刊行。