この春もテレビの世界では番組キャスターの交代劇が相次いだ。そんな中、2023年3月26日に放送された「サンデーモーニング」(TBS系)が世間の耳目を集めた。
「『降板』でいいよな。『卒業』は学生だけでいい」
同日の放送のラストでは、番組でレギュラーを務めていたフリーアナウンサーの橋谷能理子さん(61)について、司会を務める俳優の関口宏さん(79)が「今回で橋谷能理子さんが最後になりました」と明かした。橋谷アナも「本日をもちまして『サンデーモーニング』を降板いたします」と、自らの去就に言及した。
この様子について、デイリースポーツは「『サンモニ』キャスター『降板』報告『卒業』は使わず」との見出しで報道。記事に対しては、「『降板します』っていっててすごくレアなもの聞いたな」といった声のほか、
「『降板』でいいよな。『卒業』は学生だけでいい」
「大体が『卒業』って方がおかしいんだよ」
といった声がツイッターに相次いだ。
「永島優美アナ『めざまし8』きょうで卒業」
一方、3月31日には「めざまし8」(フジテレビ系)でMCを務めていた永島優美アナウンサー(31)が「卒業」した。この日、番組では「永島アナ卒業記念」と銘打った特集VTRを放送。番組ラストでは、「永島優美アナ『めざまし8』きょうで卒業」のテロップが表示される中、永島アナが感謝の言葉を述べた。
この様子を報じるニュースでも、
「永島優美アナ、約9年出演した「めざまし8」を卒業で「とても寂しいです」とロスの声上がる」(スポーツ報知)
「フジテレビ永島優美アナが『めざまし8』卒業 涙こらえ感謝『いろんなやらかしも...笑ってくださったおかげ』」(サンケイスポーツ)
「フジ永島優美アナ、涙で『めざまし8』卒業『少しでも気持ちのいい朝を迎えていただけたら』」(日刊スポーツ)
「フジ永島優美アナ『めざまし8』卒業 『スタジオの空気をいっぱい深呼吸して、吸って帰りたい』」(スポーツニッポン)
と、軒並み「卒業」という表現が使われていた。
「『おニャン子クラブ』では、メンバーが脱退することを『卒業』と言いました」
「学校を卒業する」という意味ではなく「降板する」もしくは「退任する」という意味で使われる「卒業」という言葉。いまや人口に膾炙(かいしゃ)するが、「サンデーモーニング」の放送の際には「卒業」ではなく「降板」が使われ、視聴者からは賛同の声が上がったのも事実だ。
「降板」もしくは「退任」という意味で、「卒業」が使われ始めたのはいつ頃からか。J-CASTニュース編集部は国語辞典編纂者の飯間浩明氏に聞いた。
「私自身がこの意味の『卒業』に注目したのは2006年でした。私の集めた例を見るかぎり、メディアでもこの頃からよく議論されるようになっています。たとえば、エッセイストの青木るえかさんは『週刊文春』2006年4月27日号で、レポーターが司会者から『○○さん、今日で卒業です』と花束をもらうのを見るのがつらい、という趣旨のことを書いています」
すると、21世紀になってからの用法ということだろうか。
「そうでもないんです。雑誌では、1970年代あたりからこの用法らしい例が現れています。1980年代に人気を誇った『おニャン子クラブ』でも、メンバー脱退を『卒業』と言っていました。もっとも、まだ今日ほどは一般化していませんでした。そこで、『20世紀の終わりごろから例が見られ、21世紀になって広まった』とまとめていいでしょう」
意外に長く使われているという印象も受けるが、「降板・退任」の意味で「卒業」という言葉を使うのは日本語として変なのか、もはや違和感はないのか。
「『変かどうか』は個人の感覚によるので、決着はつかないですね。逆に、『○○さんは本日で担当を終えます』では事務的で冷たい、と感じる人もいるでしょう。特に、若い世代では小さい頃からこの意味の『卒業』に馴染んでいるので、違和感がない人も多いでしょうね。メディアで『卒業』が愛用されるのは、『新しい用法で耳障りだ』などのデメリットと、『今後を応援するニュアンスがある』などのメリットを天秤にかけて、結局使い続けると決断したということでしょう」
(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)