エネルギー価格の高騰や円安で身の回りの商品の値上げが相次ぐなか、新聞用紙の値上げが業界を直撃している。
用紙代を転嫁する形で値上げを発表する新聞社が相次ぐ一方で、読売新聞は「少なくとも向こう1年間」は値上げしないことを発表。値上げによる購読者離れを警戒しているとみられ、消耗戦の様相を呈している。
「用紙代など新聞製作にかかる原材料費が...」
日本製紙は2023年2月27日、4月1日納入分から新聞用紙を1連(4000ページ分)当たり300円値上げすると発表した。値上げ幅は1割強。日本製紙の発表では、値上げの背景を「足元の原燃料価格は依然として自助努力のみでは再生産することが極めて困難な水準」と説明している。各紙報道によると22年末~23年初頭にも値上げした模様だ。日本製紙は国内の新聞用紙では最もシェアが大きく、他社も追随する可能性がある。
この値上がり分を購読料に転嫁する新聞社が相次いでいる。県紙では、朝刊のみ発行している神奈川新聞が3月1日付の社告で、4月から購読料を月額3189円(税込)から3500円に値上げすると発表。消費税転嫁分をのぞく本体価格の値上げは97年4月以来26年ぶりだ。社告では、値上げの経緯について
「用紙代など新聞製作にかかる原材料費がロシアのウクライナ侵攻などに伴い昨年から急騰しており」
などと言及。「用紙代」を挙げている。
静岡新聞は23年1月、3月末で「夕刊を廃止し、朝刊を拡充」することを発表。ただ、購読料は朝夕刊セットだった頃と同じ月額3300円(税込)。4月からは事実上の値上げだ。
20年4月に2980円から3300円に値上げしたばかり。本体価格の値上げは94年2月以来26年ぶりだった。
夕刊紙、スポーツ紙も...
県紙よりもカバーエリアが小さい地域紙は、23年に入ってから10紙以上が値上げを発表したり、実際に値上げに踏み切ったりしている。値上げ幅が10%を超える社も多く、中も熊野新聞(和歌山県新宮市)は4月に月額1800円から2400円と約3割も引き上げる。値上げの経緯を説明する社告では、用紙代にも次のように言及している。
「おととしにはインクなどの印刷関連資材や他の資材の仕入れ価格が2~3割増し、今年2月からは新聞用紙の仕入れ価格が約4割増しとなりました。製紙会社からはさらに2割程度の値上がりを予告されております」
スポーツ紙や夕刊紙の大半も3月~4月にかけて値上げを決めたり、すでに値上げしたりしている。
「少なくとも1年間」値上げしない読売新聞、2019年の値上げは25年ぶりだった
焦点は全国紙の動向だ。読売新聞は3月25日の朝刊1面に、「本紙は値上げしません 少なくとも1年間」という見出しの記事を掲載。値上げを見送る理由を次のように説明した。
「日々の暮らしや日本経済の先行きに不安や不透明感が広がる今だからこそ、読売新聞社は4月以降も購読料を据え置き、読者の皆さまにこれまで通り新聞を手に取っていただけるよう、最大限努力するべきだとの結論に至りました」
17年~21年にかけて、全国紙は本体価格の値上げに相次いで踏み切った。そこから時間をおかずに再び値上げに踏み切ると購読者数が加速するのは確実で、この点を警戒している可能性もある。
17年11月に日経新聞が値上げし、19年1月には読売も続いた。19年10月の消費税率引き上げを挟んで、21年7月に朝日と毎日、21年8月に産経が値上げしている。なお、読売が本体価格を値上げするのは94年1月以来25年ぶりだった。
日本ABC協会がまとめた22年下期(7~12月)の平均販売部数は、読売新聞663万6073部、朝日新聞397万4942部、毎日新聞185万9147部、日経新聞168万0610部、産経新聞99万9883部。「コロナ前」の19年下期と比べた減少率は、順に16.4%、26.0%、19.9%、26.1%、26.4%。3年で部数の4分の1が消える状況でも値上げせざるを得ないのか、厳しい判断を迫られる局面だ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)