昨冬に行われたサッカー・ワールドカップ(W杯)の日本対スペイン戦で、MF三笘薫選手(25、ブライトン)がゴールラインギリギリでパスをつなぎ、日本の決勝ゴールを呼び込んだ「三笘の1ミリ」。ファッション業界では今、このとき三笘選手が見せたポーズを広告に取り入れるケースが相次いでいる。
「ミリ単位」修正にこだわり→「三笘の1ミリ」オマージュへ
「こんなところまで三笘効果が」――。2023年3月、あるファッションブランドが販売するパンツのポスターがSNS上で話題を呼んだ。ポスターには黄色のパンツを履いた女性が、白線の先にあるボールに向けて左足をめいっぱい伸ばす姿が写っている。記載された商品コピーは「ミリにこだわるスタイルアップパンツ」だ。
ポスターを見て引き合いに出されたのは、22年12月2日のW杯カタール大会グループEの日本対スペイン戦で、日本代表の三笘選手が見せたプレー。ゴールラインギリギリで足を伸ばしてパスをつなぎ、田中碧選手の決勝ゴールを呼んだ、通称「三笘の1ミリ」だ。
今回のポスターと「三笘の1ミリ」の写真を比較してみると、ピンと伸びた左足だけでなく、後方に伸びた左腕、さらに右腕や右足の曲げ方までそっくりなことがわかる。
ポスターを掲示したのは、ジーンズのラインアップを強みとするブランド「AZUL BY MOUSSY」(アズールバイマウジー)。運営するバロックジャパンリミテッドの広報担当者は3月23日、新製品「VENUS TARPERD PANTS(ヴィーナステーパードパンツ)」の発売にともない、全国の店舗で3月10日からポスターの掲出をはじめたと説明する。
なぜ、「三笘の1ミリ」風のポスターにしたのか。担当者は、商品の製作段階にそのヒントがあったことを明かす。
「商品開発の段階から本社の女性社員を20人ほど集め、試着とヒヤリングを繰り返しました。特に声が上がったこととして『膝周りと、足首周りの生地のもたつき』でしたので、二度三度サンプルを作っては『ミリ単位』で修正を重ね、最終的に現在の『VENUS TARPERD PANTS』が完成しました」
「この修正に修正を重ねる際に『あと4ミリ削ろうか』や、『ここは2ミリ大きくしよう』といった様に『ミリ単位にこだわろう』というキーワードは出ておりました。そこにジャストタイムで世界を沸かせた『三笘の1ミリ』という言葉が世界に流れていきましたので我々の『ミリ単位にこだわる』ことを、『三笘の1ミリ』にオマージュして作成した次第になります」
ユニクロCMでは「内田の1ミリ」登場
担当者は「店頭ではサッカーファンのお客様やそうでないお客様からも『これあれじゃない?』という感じで多くのお客様から反応をいただきました」とポスターの反響を語る。店頭入口に商品と一緒に掲示していることもあり、「通行のお客様からも『三笘』『サッカー』のワードを聞くことが多く、入店のきっかけに繋がっております」とした。
「三笘の1ミリポーズ」とファッション広告が融和したケースは他にもある。ファストファッション大手のユニクロは伸縮性や動きやすさを売りにした「感動パンツ」のテレビCMを3月上旬から放送開始した。女優の綾瀬はるかさんとサッカー元日本代表の内田篤人さんらがサッカーをプレーする内容のCMでは、「感動パンツ」を履いた内田さんが、「三笘の1ミリ」ならぬ「内田の1ミリ」でゴールライン際のボールに左足を伸ばすシーンが登場する。
なぜ、「三笘の1ミリポーズ」がファッション広告に相次いで起用されているのだろうか。ファッションジャーナリストの宮田理江氏は3月18日、取材にこう見解を示す。
「日本チームに勝利をもたらした、感動的なプレーとして記憶されているだけに、商品にポジティブなイメージをまとわせる効果が期待できると判断しているようにみえます。近頃はスポーツウエアの特性を、街中で着るファッションアイテムに生かす試みが広がっていて、今回の広告は日常とスポーツをしなやかにつなぐメッセージにもなっているようです。三笘選手の躍動感やアグレッシブさ、スピード感なども商品に健やかで軽快な雰囲気を寄り添わせてくれるメリットがありそうです。誰もがすぐに思い出せる『決定的瞬間』だから、商品に親近感を持ってもらいやすいという点でもプラスに働くでしょう」
そして、パンツの良さをアピールする意味でも、「三笘の1ミリポーズ」を広告に取り入れることは効果的だとする。
「パンツは素肌に割とフィットするタイプのウエアなので、伸びやかな着用感が求められます。引っかかったり突っ張ったりといったストレスは不快感を引き起こしてしまいかねません。その点、三笘選手があのプレーで見せた、ギリギリまで足を伸ばしてボールにタッチしたプレーは、足が自由に動かせる様子を印象づけます。たとえロング丈のパンツであっても、同様の伸縮性や心地よさが感じられるというイメージを伝えるうえで、あのシーンは効果が高いと思われます。『サッカーができるほど』『あのプレーが可能なぐらい』という、ストレスフリーのストレッチ感をアピールできる点で、パンツの穿き心地を象徴するにはうってつけの手法と映ります」