ジャニーズ事務所創業者として知られるジャニー喜多川氏=2019年に87歳で死去=による、少年らに対する性加害疑惑について報じたドキュメンタリーが英BBCで放送され、制作した記者らが2023年3月17日に日本外国特派員協会でオンライン会見を開いた。
この問題は1999年に週刊文春が報じたが、「後追い」は皆無に近い状況。20年以上にわたる「沈黙」も番組のテーマのひとつだ。取材でも「沈黙の壁」に直面したといい、記者会見ではその背景についても話題になった。
一貫しているテーマは「搾取」と「沈黙」
番組は「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」(Predator: The Secret Scandal of J-Pop)。英国では3月7日(日本時間)、日本を含む全世界向けには18、19日(同)に放送された。ジャニーズに所属していた男性や、事案について報じた週刊文春記者の証言などが盛り込まれている。
会見には記者のモビーン・アザー氏とプロデューサーのメグミ・インマン氏が出席。アザー氏の記者としてのキャリアは約20年で、その間、麻薬の密売や性的搾取など多くのテーマについて取材してきた。一貫しているテーマは「搾取」と「沈黙」だ。ジャニー氏をめぐる事案は19年に知り、この2つに当てはまるため関心を持ったという。ただ、組織やジャーナリスト、音楽業界の人々が、オフレコであっても自分の経験を共有したがらないという点で、「沈黙の壁」は予想以上に高かったと説明した。ただ、放送が実現したことで
「最終的にやりたかったのは、議論に火をつけることだ。それが始まっており、作品には満足している」
とも話した。
「日本で育ち、日本で仕事をすることが多い」というインマン氏は、「この問題について話してもらうのは難しいだろうと思っていた」が、その難しさは予想以上だったと説明。「もうひとつ驚いたこと」として、
「これ(喜多川氏の事案)が、いまだに神話や都市伝説として理解されており、有名人のゴシップのようなものだと受け取られ、児童虐待として真剣に扱われていなかったこと」
を挙げた。
「ジャニーズ事務所の力の強さと、その存在の大きさ」に驚く
なぜ「沈黙の壁」は生まれたのか。インマン氏は
「非常に驚いたことのひとつが、ジャニーズ事務所の力の強さと、その存在の大きさだ。音楽番組に限らず、人気番組には必ずと言っていいほど、彼らのタレントがひとりは出演している」
と、ジャニーズ事務所がテレビなどのメディアに食い込んでいると指摘したうえで、
「なぜメディアがこの芸能事務所に依存しているのか、そうでないとすれば非常に強い信頼関係を持つようになったのかが分かると思う」
との見方を示した。
アザー氏は、記者は「社会の断面を表し、集団思考の影響を受けやすい」とみる。その上で、仮に自分の周りで
「噂を聞いたかもしれないが、それは噂であって、誰も触れたがらない話であり、それには理由があるはずだ」
という話が広がれば
「多くの記者の仕事に影響が出そうだ」
と指摘した。つまり、喜多川氏の事案を追及したがらない「集団思考」が報道にも影響している、という見立てだ。
喜多川氏による性加害疑惑を報じた週刊文春の記事をめぐっては、喜多川氏とジャニーズ事務所が、計1億円余りの損害賠償を求めて東京地裁に提訴。一審の東京地裁判決では性加害の事実を認めず、文春側に計880万円の支払いを命じたが、二審の東京高裁判決では「その重要な部分について真実」と認定。賠償額を120万円に減額した。ジャニーズ側は上告したものの、最高裁は04年2月に上告を棄却。高裁判決が確定した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)