「させていただく」は間違った表現? 「過剰敬語」指摘に注目も...辞典編纂者の見解は

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   「させていただく」という敬語は誤りなのか――。元読売テレビアナウンサーの辛坊治郎さん(66)のラジオ番組での指摘をきっかけに、そんな話題がSNSで注目を集めている。

   J-CASTニュースは、国語辞典編纂者の飯間浩明氏に意見を求めた。

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「過剰敬語になっちゃうので」指摘も...

   2023年3月8日放送の「辛坊治郎ズーム そこまで言うか!」(ニッポン放送)に出演した辛坊さん。通常、同番組にはアシスタントの増山さやかアナウンサー(56)と出演しているが、この日は代役の内田雄基アナウンサー(25)と出演。その際、「させていただく」という表現に苦言を呈した。

   番組冒頭、内田アナは「今回、このアシスタントのピンチヒッターを務めさせていただくということで」と発言。これに対し、辛坊さんは

「『務めさせていただきます』って。これもう、今、日本語でよく、これね、ありますけど、いわゆる、これ、あの、国語学者等が批判する過剰敬語ってやつ、過剰丁寧語になっちゃうので」

   としつつ、増山アナウンサーであればとっさに言い換えるのではないかとたしなめたのだった。

   内田アナは「なるほど......私、内田がピンチヒッターを務めております」と訂正した。こうしたやり取りには、放送を聞いたリスナーからも、

「全く同感!!デビューさせていただく、放送させていただくなどなど。ホント、うんざりするくらい多い」
「これこれ!違和感!YouTuberでも『させていただく』が多い」

   など、辛坊さんに賛同する声がネットに相次いでいた。

「意外に思うかもしれませんが...」

   果たして、「させていただく」はおかしな表現なのか。

   国語辞典編纂者の飯間氏は、言語学者で法政大学教授の椎名美智氏と、同じく言語学者で放送大学教授の滝浦真人氏の編集による『「させていただく」大研究』(2022年12月刊行、くろしお出版)を紹介しつつ、次のように答えた。

「(同書では)8人の研究者が『させていただく』を論じています。私も僭越ながら論考を寄せました。一般の人は意外に思うかもしれませんが、この本の中で、『させていただく』という言い方を批判している執筆者はいないんです」

   となると、「させていただく」の推進派とでも言うべき研究者ばかりが執筆したのだろうか。飯間氏はそうではないと否定する。

「推進運動はしませんが(笑)、この言い方にはそれなりの理由があることを指摘しています。表紙に『「させていただく」がなかったら敬語は崩壊する!?』とコピーがついています。『させていただく』は、現代の敬語にとって欠くことができないのです。

たとえば、上司に対して『会場に案内します』をへりくだって言うと『会場にご案内します』となります。謙譲語では、一般に『お(ご)~します』の形を使いますよね。ところが、この言い方ができない動詞が多いんです。たとえば、『会場を変更します』を謙譲語で言いたい場合どうするか。『会場をご変更します』は変ですね。そこで『会場を変更させていただきます』が登場します。

つまり、『させていただきます』は、『お(ご)~します』がカバーできない動詞をカバーしてくれる、ありがたい存在なのです」

「現在は、従来の敬語のシステムが、新しいシステムに置き換わっている途中です」

   しかし、それにしては批判の声が強い印象だ。このことについて飯間氏は「敬語の変革期であるため」と述べる。

「先ほどの研究書で、滝浦真人さんが『敬意漸減』(敬意が減る現象)について述べています。敬語というのは、長く使っているうちにすり切れて、敬意が十分に表せなくなります。『会場を変更する』も、以前ならば『会場を変更いたします』と言えば敬語として通用しました。でも、それだときついニュアンスを受け取る人も増えてきました。それで『させていただく』が使われはじめた面もあります。

現在は、従来の敬語のシステムが、新しいシステムに置き換わっている途中です。変革期なので、従来のシステムになじんだ人と、新しいシステムを自然と感じる人がせめぎ合っているわけですね。このせめぎ合いは避けがたいものです。実はもう1世紀ほどもせめぎ合っています。でも、次第に新システムに落ち着いていくでしょう」

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)

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