「意外に思うかもしれませんが...」
果たして、「させていただく」はおかしな表現なのか。
国語辞典編纂者の飯間氏は、言語学者で法政大学教授の椎名美智氏と、同じく言語学者で放送大学教授の滝浦真人氏の編集による『「させていただく」大研究』(2022年12月刊行、くろしお出版)を紹介しつつ、次のように答えた。
「(同書では)8人の研究者が『させていただく』を論じています。私も僭越ながら論考を寄せました。一般の人は意外に思うかもしれませんが、この本の中で、『させていただく』という言い方を批判している執筆者はいないんです」
となると、「させていただく」の推進派とでも言うべき研究者ばかりが執筆したのだろうか。飯間氏はそうではないと否定する。
「推進運動はしませんが(笑)、この言い方にはそれなりの理由があることを指摘しています。表紙に『「させていただく」がなかったら敬語は崩壊する!?』とコピーがついています。『させていただく』は、現代の敬語にとって欠くことができないのです。
たとえば、上司に対して『会場に案内します』をへりくだって言うと『会場にご案内します』となります。謙譲語では、一般に『お(ご)~します』の形を使いますよね。ところが、この言い方ができない動詞が多いんです。たとえば、『会場を変更します』を謙譲語で言いたい場合どうするか。『会場をご変更します』は変ですね。そこで『会場を変更させていただきます』が登場します。
つまり、『させていただきます』は、『お(ご)~します』がカバーできない動詞をカバーしてくれる、ありがたい存在なのです」