「励まし」と「救済」の文学 ノーベル賞の大江健三郎さんは何を残したか

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長男が生まれてテーマが変わった

   才能が爆発するかの如く話題作を連発していた大江さんに、大きな転機が訪れたのは、1963年。28歳の時だった。生まれたばかりの長男、光さんが知的障害を持っていることがわかった。

   のちに大江さんは語っている。

「僕はかつてない揺さぶられ方を経験することになった。いくらかの教養や人間関係も、それまでに書いた小説も、なにひとつ支えにならないと感じた」(89年6月、朝日新聞)

   しかし、その苦しい思いを、大江さんはすぐさま翌年、『個人的な体験』として作品にまとめ上げた。 雑誌AERAは、大江さんがノーベル賞を受賞した後の1994年12月19日号で「原点は励ましの文学」という記事を掲載している。

   その中で、大江さんの過去の作品のほとんどを読破したというジャーナリストの小島郁夫さんは指摘している。

「子どもが生まれてから、作品のテーマは、前向きなものに変わった。初期のころは、政治や革命、暴力がよく題材とされていたが、それ以後は、創造力や希望についても語り始めている」

   作品の中で「励ます」という言葉がしばしば使われるようになったという。

   ノーベル文学賞の受賞理由も、「想像の世界の中で個人的なものを掘り下げることで、人間に共通するものを描き出すことに成功した。これは、脳に障害のある子の父となってからの作品にとくに言える」とされている。

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