北朝鮮の金正恩総書記が、娘を連れて重要行事に出席する機会が増えている。最初に動静が報じられたのは2022年11月の新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射で、直近は23年3月9日の「火星砲兵部隊」視察。娘の動静が国営メディアで報じられるのは、これが8回目だ。
娘の露出が増えることで、正恩氏の後継者として注目する向きもある。ただ、現時点で韓国政府はこの見方に慎重だ。兄にあたる第1子もいるとみられるが、虚弱体質だという報道もある。後継者レースは混沌とした状況が続きそうだ。
正恩氏は9歳からスイスに留学、長男は推定10代で平壌在住?
北朝鮮の国営メディアの書きぶりは「金正恩総書記が愛するお嬢様と共に着工式場に姿を現すと~」(2月26日)といった具合で、北朝鮮側が娘の名前は明らかにしているわけではない。ただ、韓国の情報機関にあたる国家情報院(国情院)は、「キム・ジュエ」さんだとみている。
正恩氏には少なくとも3人子どもがおり、ジュエさんは第2子だとみられている。韓国の権寧世(クォン・ヨンセ)統一相は1月15日の国会答弁で、
「キム・ジュエの上に息子がいて、その(ジュエさんの)下には子どもいるが性別は確かではない」
と発言している。そうであれば、疑問点として浮上するのは「なぜ長男が出てこないのか」だ。
仮説のひとつが「健康不安」説。朝鮮日報系のケーブルテレビ局「テレビ朝鮮」が2月23日、政府消息筋の話として、長男が平壌に住んでいると報道。
「金正恩の息子はキム・ジュエとは違って体格も小さく、虚弱体質であると伝えられた」
としている。テレビ朝鮮によると、正恩氏が9歳からスイスに留学したことを踏まえると、10代と推定される長男も海外にいると韓国当局はみていた。だが、平壌に住んでいるとの情報が出たことが健康不安説を補強することになっているようだ。情報当局は「(妻の)李雪主(リ・ソルジュ)が金委員長と結婚する前、他の男と結婚していたとみて関連内容を分析中」とも伝えている。
「女性が軍中心の北朝鮮の体制を導くことができるかは疑問」
現時点で韓国政府は、ジュエさんが後継者だとの見方には慎重だ。統一相の権氏は2月27日にCBSラジオで放送された「キム・ヒョンジョンのニュースショー」で、ジュエさんについて
「後継者としてみるのは時期尚早」
「北朝鮮の体制は韓国よりもはるかに家父長的な男性中心の社会的側面がある。今から後継の構図を作っても、女性が軍中心の北朝鮮の体制を導くことができるかは疑問もある」
などと論評している。「金日成→金正日→金正恩→その子ども」の4代世襲を確実視する一方で、
「その4代世襲の当事者がキム・ジュエかどうかは、少し見守るのが正しい」
とするにとどめた。長男の病弱説については
「確認されていない」
とした。
国情院も、長男の存在を明らかにしている。韓国メディアによると、国情院の金奎顕(キム・ギュヒョン)院長が3月7日に国会報告した内容を、国会議員が報道陣に明らかにしている。
それによると、正恩氏の第1子が息子だという点について「具体的な物証はない」一方で、「諜報(ちょうほう)上、息子であるのは確実だということを外国情報機関の情報共有などを通じて確認している」と説明。長男の健康問題については「諜報で確認されたことがない」。3人目の子どもについては「出産の事実を確認しているが、性別は現在まで確認されていない」と説明した。
ジュエさんについては
「正規教育機関に通ったことがなく、平壌でホームスクーリングをしている」
と説明する一方で、ジュエさんの露出が増えている背景については、正恩氏が現時点では総じて健康だと考えられているとして
「後継者を早い段階で構想する必要がなく、(4代世襲を)印象づける目的が最も大きい」
とみている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)