スマホのアプリを用いて、顔の輪郭や目鼻の形を修正したような加工写真がSNS上にあふれる昨今──。自撮りと現実のギャップを埋めたいと嘆く若者がインターネット上に散見され、なかには美容整形で無理難題を解決しようとする人もいる。
ある美容整形外科医は、「加工もあまり良くない。どれが自分の顔か分からなくなる」と危惧する。詳しい現状を聞いた。
整形は綺麗な写真を撮影するため?
美容外科「高須クリニック」名古屋院院長の高須幹弥氏は、若年層について「必要以上に自分のルックスで悩む人が増えた」と懸念する。自分の写真を見る機会が増えたうえ、SNSに比較対象があふれているという背景がある。
SNSには加工も含め、きらびやかな写真が集まりやすい。アイドルやモデルといった雲の上の存在だけでなく、一般人相手にも「自分と同じような立場で可愛い子がいる」などと劣等感を煽られる。カウンセリング時には自分の美醜を写真で判別する事例が見られるとし、このような出来事を紹介した。
「たまたま不細工に撮れた写真を見て物凄く嫌悪感と劣等感を抱いて、整形したいって子がいて。鏡を持たせてどこが気に入らないのか聞いても、『いや、鏡で見た時の顔は良いんです。写真を撮った時が不細工で嫌』って...そういう人が凄く増えました」
笑った時に、目が細くなる、小鼻が横に広がる、頬が膨らむなど。ほかには顎を引くと二重の幅が見えない、鼻が曲がって見える、顔の左右差が気になる、と写真の顔を基準に不満を訴えかけてくるという。
写真は一瞬の姿を切り取るため、美人と思われるような写真ばかりをSNSで公開している人であっても、角度によって写りが悪くなることもある。美容整形は、綺麗な写真を撮影するのが目的ではないと高須氏は強調する。
「鏡で見た時の顔はそんなに嫌じゃないなら、写真を上手に撮る練習をすれば良いし、何十枚も色んな角度で撮って一番可愛いのだけ見たらと毎回言っていますが、それが通じないですね全く」
患者の要望が整形で解消出来ない内容だったり、支離滅裂だったりする場合は手術を断る。悩みを聞き入れてもらえないと受け取った患者が腹を立て、謝罪してなだめるケースもあるという。
「なりたい顔」は芸能人から一般人へ 背景にSNSの普及
高須氏によると、SNSの普及は整形希望者の「なりたい顔」に変化を与えている。2000年ごろはカリスマ的な芸能人が人気を集めていた。今でも芸能人を理想とする人はいるものの細分化が進み、整形を公表しているキャバクラ嬢や一般人などの写真を出す人が多くなった。
5年前ごろからは、自撮り写真を加工して持ち込む人も増えている。
高須氏は「加工もあまり良くない。どれが自分の顔か分からなくなる」と警鐘を鳴らす。若者のなかには、加工写真しかSNSに投稿できない状態の人もいるほどだという。加工した顔に見慣れてしまうと、鏡で見た自分を不細工と感じ、劣等感から整形に走りうるとする。
ただ、整形するとしても骨格など生まれ持った素材によって実現可能な範囲には「限界がある」と忠言した。
写真を加工して「盛る」文化はSNS普及以前からある。若者に特化したマーケティング研究機関「SHIBUYA109 lab.」所長の長田麻衣氏は、盛る文化の変容について「元々はエンタメだったのが、具体化された」と分析する。
カメラアプリの発達によって、顔のパーツを自由自在に加工し、理想の状態を細かく認識できるようになった。自覚するだけではなく、口コミアプリの登場やSNSにおけるインフルエンサーの情報共有などで整形がコンテンツとして身近になり、「つけまつげを付ける」くらいの気軽さで整形を取り入れやすいのではないかと述べた。
「悩まなくて良いことを悩んでる」という意識
最近では、ツイッターで整形に関して発信する「整形垢(アカウント)」が目につく。プロフィール欄をみると、重度の場合は同じ部位の手術を複数回重ねていたり、整形に数千万円を投じていたりする旨が記されていると高須氏は話す。整形垢同士で交流する弊害も出ているという。
「『同じような仲間がいるから』と思って拍車がかかっていると思います。どんどん必要のない手術をして...皆がやってるからやるっていう感覚で」
高須氏は、自分の容姿に強い劣等感を抱いて整形を繰り返すような人について、「ほとんどの人は悩まなくて良いことを悩んでる」「認知の歪みを自覚することが大事」と重ねて訴える。
発端としては、幼少期や若いころに、親や周囲の人間から容姿を指摘されたという場合が多いとみる。男性に比べて女性の方が気にしやすいといい、「女性にルックスの悪さを指摘するのは絶対NG」と注意喚起する。
盛る文化はルッキズムを加速させる?
長田氏は、若者の間でビジュアルコミュニケーションが主流になっている現状を受けて、ルッキズム(外見至上主義)が加速するリスクはあると危機感を表す。もっとも一概には言えず、「外見至上主義的な価値観との距離感を調節している子もいる」と補足する。
盛る文化はネガティブな面だけでなく、「根底にはエンタメとして『盛る』を楽しむというのがある」。時代に合わせて変化しながら、自分の理想像が可視化され、人に共有するような文化は存続するだろうとした。
「『盛るに疲れたらそっちに行こう』って、逃げ道になる第三の場所(プラットフォーム)がおそらく出来てくる」とし、デジタルネイティブの若者は上手く付き合っていくだろうとの見立てだ。
整形に関しても、「個人の自由」とする寛容さが若者にはあるとし、長田氏はこう述べる。
「整形して生きやすくなった子たちもいるので、『個人の自由だし選択肢のひとつとして増えたなら良かったよね』って感じの方が良いのかなと思います」
美容整形は「過渡期」にきている
美容整形は過渡期に来ている、とも高須氏は話す。
美容外科医、クリニックが増加し、業界内の競争も激化。希望者はさらに増えていくと予想する。一方で、大手チェーン系クリニックであっても二重整形については「ぼったくり」が見受けられるとし、広告で低価格をうたって客を集め、高額なプランを提示するケースがあると警告した。
整形をめぐっては、親が未成年の子供を整形させて問題視される例がある。高須氏は、親が嫌がる子供を連れてくることは稀にあり、その場合は手術を断るとした。判断は医者の良心による。
子供の整形の多くは、本人の強い意思に基づくという。二重まぶたを作るアイテープやアイプチで皮膚がかぶれていて、「手術して二重にする方が遥かにマシ」という状況も。小学校高学年であれば、二重手術によって成長段階で支障をきたすこともないと補足する。鼻や輪郭などの手術はその限りでない。
整形の普及が進む社会に対しては、「ルッキズムが過度に進むのも危険ですよね。人間の価値って外見だけで決まるわけじゃないので、ちゃんと中身を磨くことも頑張ってほしいと思います」と伝えた。
この記事はJ-CASTニュースとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。