ANAホールディングス(HD)は2023年3月7日、日本郵船(NYK)の子会社で航空貨物輸送を手がける日本貨物航空(NCA)を買収することで基本合意したと発表した。ANA HDが2月に発表した25年度までのグループ中期経営戦略で「貨物事業の拡大」をうたっており、その一環だ。
NCAは日本郵船の100%子会社で、ANA HDがNCAの全株を取得し、10月1日の買収完了を目指す。買収額は未定。ANAは旅客機で貨物を運んでいるほか、アジアを中心に主に中型機で貨物専用機を飛ばしている。日本と欧米を大型機で結ぶNCAのネットワークを取り込むことで輸送力を補強したい考えだ。
2025年度には輸送力を「コロナ前」1.1倍に拡大
NCAは1978年にANA、NYK、商船三井、川崎汽船、山下新日本汽船の5社が出資して設立。ANAは05年、独自に貨物輸送事業を展開するとしてNCA株をNYKに譲渡していた。ANAとNCAは18年から業務提携しており、貨物便の共同運航(コードシェア)や貨物スペースの買い取りで協力。ANAからNCAに整備士を派遣したりもしていた。今回の買収で、18年ぶりにANA側との資本関係が復活することになる。
ANA HDのグループ中期経営戦略では、貨物事業について
「成長するアジア=欧米の輸送需要を取り込むとともに、 フレイター(貨物専用機)で大型貨物等をカバー、貨物事業収益を最大化」
とうたっている。「コロナ前」の19年度の貨物の輸送力を100とした場合、コロナ禍で旅客便が多数運休した影響で20年度には62にまで激減。23年度には95にまで戻る予定で、25年度には約110に伸ばしたい考えだ。
ANA HDは貨物専用機として大型のボーイング777型機を2機、中型の767型機を9機保有。NCAはボーイング747型機を15機保有している。ANA HDによると、21年の輸送重量規模はANAが世界13位でNCAが42位。両社を合わせると世界9位に浮上する。
ネットワークを補完する意味もある。ANAの貨物専用機は中国や東南アジアの都市に多く乗り入れるのに対して、NCAはアムステルダム、ミラノ、ニューヨーク、アンカレジなど欧米路線も多い。買収によって、欧米で受け取った荷物を日本で積み替えて東南アジアに届ける、といった事業も展開しやすくなる。ANA HDグループ経営戦略室経営企画部長の津田佳明氏は「お客様への販売機会が格段に増えていくので、そこに大きな効果が出る」と話す。
「航空貨物で運べなかったような品目や高単価な貨物が増えてきている」
NCAの22年3月期の連結決算では、745億円の営業利益を計上する一方、純資産はマイナス588億円で債務超過の状態。23年3月期の業績予想では630億円の経常利益を見込んでいることから「おそらく解消するのではないか」(同経営企画部担当部長の鈴木大輔氏)とみている。
コロナ禍で一度は急騰した貨物運賃も下落傾向に転じている。津田氏は「運ぶ量はコロナ前までは戻らない」とする一方で、
「サプライチェーン、品目や荷主のニーズが変わってきている。これまで航空貨物で運べなかったような品目や高単価な貨物が増えてきている」
とも話しており、新たな需要を見込んでいる。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)