人工知能(AI)による自動応答ソフトが注目を集める中、日本のIT企業が記事自動作成ツールの提供を試験的に始めた。
メディア関係者の間では期待と不安がない交ぜとなっているが、実用性はどうなのか。もうライターは不要に?手ごたえと課題を聞いた。
「WELQ」騒動思い出す人も
ウェブマーケティングを手がける「chipper」(東京都渋谷区)は2023年1月下旬、米Open AI社のAI対話ソフト「Chat GPT」の技術を活用し、記事自動作成ツールのβ版を提供すると発表した。
グーグルやヤフーなど検索サービスからのアクセスに力を入れるメディアを対象とし、「SEO(検索エンジン最適化)」に効果的な記事が手軽に作れると訴求する。すでに複数社が試験導入しており、ライティング時間を従来の10分の1にまで圧縮できた例もあるという。
発表はメディア関係者を中心にSNSで話題となり、「AIライターを使う流れはどんどん進むでしょう」「来ると思っていたけどあまりにも早かった」と期待感の高さがうかがえる感想が寄せられた。
一方、「コンテンツの粗製乱造になんなきゃいいけど...」「著作権問題とその対策・対処をどうするのか」「Web上の情報の真偽を判断する能力がさらに重要になりそう」と懸念も少なくない。
IT大手・DeNAの16年の騒動を思い出す人もいた。運営する健康・医療情報サイト「WELQ」などで著作権侵害や不正確な情報発信が次々に発覚し、閉鎖に追い込まれた。
記事作成フロー
chipperは3月2日、J-CASTニュースの取材に、記事作成の流れを次のように説明する。Open AI社の技術で自動生成される文章をもとに、SEOに有効な要素を独自に組み合わせるという。
(1)生成要件の設定
・ペルソナ/ニーズ/目的などを設定
・ターゲットキーワードの設定
・検索意図の設定
(2)記事タイトルの生成・選定
・文字数/キーワード重複などを条件付け
・検索意図に応じて最適化
・複数自動生成し、最後に目視で選定
(3)中見出し生成選定
・文字数/キーワード重複などを条件付け
・記事構造の最適化
・抽出された見出し一覧に齟齬がないか目視チェックし、選定
(4)本文の生成
・中見出しを基軸に文章を生成
・独自の文章構成ロジックによる生成
(5)校正
・確認ツールによる変換ミス・誤字・脱字・エラーをチェック
・目視による同様のチェック
・美容/健康食品の場合は、薬機法チェックツールで確認
(6)納品
・5000~1万字程度の記事の原稿案を納品
実用化に向けての課題は
従来だと、5000字ほどの原稿作成には平均3時間20分程度かかっていたが、(1)タイトル作成5分(2)骨子作成5分(3)本文執筆10分――の計20分となり、10分の1に短縮できたという。
時短以外にも、「ライティングの知見リソース、予算が不足しているため、記事執筆を通じたコンテンツマーケティングが実施できなかったクライアントで、自社メディアの記事をリリースできた事例も生まれております」とし、「記事執筆のハードルを格段と下げることができました」と太鼓判を押す。
ツールは月額課金モデルを想定し、SEOやマネタイズなど周辺領域のコンサルティングも併せて提供予定だ。
一方で、実用化に向けて課題もある。事業リスクの把握が難しく、先行するAIサービスの調査や関係者へヒアリングを進めている。
そのためβ版は外部公開しておらず、自社の担当者を挟んで運用している。クライアント、chipper、法律関連の提携企業の三者がチェックする体制だ。
試験導入したメディアでは、「YMYL(Your Money or Your Life)」と呼ばれる分野の記事化は避けている。グーグルが「人々の健康、経済的安定、安全、または福祉や幸福に重大な影響を与える可能性がある」と定義した、誤った情報を伝えた際のリスクが高いトピックを指す。「WELQ」騒動はまさしくこの分野で起き、グーグルも検索順位の評価を厳しくしている。
chipperは将来的に、「AIを使った類似サービスのように、コンテンツポリシーを制定し、遵守できる企業にのみ提供する形への移行を模索したいと思っています」としている。