AKB48が2023年4月26日に発売する61枚目のシングルは、グループにとって大きな転機になりそうだ。AKB48は08年からキングレコードから楽曲を発売してきたが、新曲はユニバーサルミュージック/EMI Recordsに移籍して発売されるためだ。
アイドルグループの運営では、運営会社とレコード会社(レーベル)はきわめて密接な関係だ。成長の原動力になった握手会や選抜総選挙は、キングレコードが発案したり運営に携わったりしてきた。AKB48にとってレコード会社の移籍は08年以来15年ぶり。発表では、グループについて「結成18年目を迎え、レーベル移籍という新天地に立つ」と表現。新たな成長軌道が描けるかが問われそうだ。
ソニーからは「契約できませんよ」、「そうしたらキングレコードが拾ってくれて」
AKB48は06年にソニーミュージック傘下の「デフスターレコーズ」から「会いたかった」でメジャーデビューしたが、赤字が積み重なって契約続行が不可能になった経緯がある。そこに参入したのがキングレコードだった。23年2月18日放送の「秋元康と佐久間宣行のオールナイトニッポン」(ニッポン放送)で、総合プロデューサーの秋元康氏が当時を次のように明かしている。
「AKBは、ずっとソニーミュージックがやってくれたんですよ。で、全然売れなかったので、いともあっさりと肩をたたかれて『契約できませんよ』と言われて『そうですか...』と言って...。そうしたらキングレコードが拾ってくれて、キングレコードか出したら突然、『大声ダイヤモンド』(08年10月発売)から売れたわけですよ」
秋元氏によると、ソニー側が背負った赤字は「多分2億ぐらい」。この埋め合わせをする意味も込めて、「公式ライバル」乃木坂46が誕生することになる。
「バーンと売れて、それでソニーはすごく慌てたわけですよ。で、その時のイメージで言うと、多分2億ぐらい赤字作っちゃったまま去っちゃったから、それを申し訳ないなという思いがあったので、じゃあもう1回やりましょうか、という話しになり...」
キングレコード側のキーパーソンが湯浅順司氏。「涙は句読点 AKB48公式10年史」(2016年、日刊スポーツ新聞社)によると、当時の運営会社「AKS」にプレゼンし、後に移籍が決まったことを知らされると
「『やった!』と思いながらも、まだ役員にはAKB48の『え』の字も言ってなかった(笑い)」
という。
「劇場盤」「全国握手会」の仕組みもキングレコードが考案
コロナ禍の直前まで行われていたAKB48の握手会は、「全国握手会」と「個別握手会」の2種類に大別される。「全国握手会」は店頭などで売られているCD「初回限定盤」についている参加券を持って会場に出向き、会場で誰と握手するか(どのレーンに並ぶか)を決める。これに対して「個別握手会」は、事前に握手するメンバーと時間帯が指定された参加券つきの「劇場盤」と呼ばれるCDを「キャラアニ」と呼ばれる専用サイトで申し込む仕組みだ。この仕組みを作ったのもキングレコードだ。
「涙は句読点」によると、湯浅氏は握手会が始まった経緯を
「ハロプロヲタだった頃のアイドルとの握手は、 全部鮮明に覚えていました。たとえ時間が短くても、ファンの方にとって一生の思い出になる。それをどうしても全国でやりたくて、全国握手会を始めました。本拠地の秋葉原でも、と思ってできたのが劇場盤でした」
と明かしている。
劇場盤は、最初は本拠地の東京・秋葉原のAKB48劇場で販売し、劇場内で握手してもらう仕組みだった。ただ、敷地外の列が長くなりすぎて警察から繰り返し注意を受け、より広いホールなどで行うようになった経緯がある。
AKB48の楽曲に姉妹グループメンバーが参加するようになったのも、この「大声ダイヤモンド」から。コロナ禍が始まった直後に発売された「失恋、ありがとう」(20年3月発売)まで続いた。SKE48の松井珠理奈さん(25=21年卒業)やHKT48の指原莉乃さん(30=19年卒業)、NMB48の山本彩さん(29=18年卒業)らに代表される姉妹グループの人気を取り込んだことに加えて、姉妹グループメンバーがAKB48楽曲の握手会に参加することで、姉妹グループのファンがAKB48楽曲を買い支える効果もあった。結果として、シングル楽曲としては「桜の木になろう」(11年2月発売)から「失恋、ありがとう」まで連続してミリオンセラーを記録した。
湯浅氏は姉妹をグループ含めたAKB48グループの代名詞のひとつでもあった「選抜総選挙」(09年~18年)で「選挙管理委員長」も務め、ファンの間では有名な運営スタッフのひとりでもあった。
今回の移籍で湯浅氏はAKB48の業務から離れることになり、2月28日に行われた武藤十夢さん(28)の卒業コンサート観覧後に
「とむちゃんとほぼ同時に僕も卒業できることはとても誇りです」
とツイートしている。
国内4グループ集結でスケールメリット生かす?
新曲発売とレコード会社移籍の発表に先立つ2月26日には、AKB48のユーチューブチャンネルで、オレンジの服を着た謎の人物が都内を自転車で駆け抜ける動画が公開されていた。そこには、
「時代は変わった」 「どこに向かっているの?」 「顔と名前が一致しない」
といったグループの現状をめぐる声が次々に映し出された。NHK紅白歌合戦や日本レコード大賞を念頭に置いた「落選」、「懐かしいミリオン」といった文言もある。翌日にAKB48の運営会社「DH」とユニバーサルミュージックが連名で発表した資料では、新曲を
「結成18年目を迎え、レーベル移籍という新天地に立つAKB48 の61st シングル!」
と表現している。コロナ禍で握手会はオンライン開催を余儀なくされ、楽曲に姉妹グループメンバーを参加させない形にかじを切ったことで、ミリオンからも遠ざかった。「新天地」で、いかにして課題に対処するかが問われる局面だ。
ユニバーサルミュージックは、HKT48がデビュー時(13年3月発売のデビューシングル「スキ!スキ!スキップ!」)から所属するレコード会社でもある。20年にNGT48がソニーミュージック傘下、22年NMB48が吉本興業傘下からそれぞれ移籍しており、国内6グループのうち4グループが所属することになる(SKE48はavex trax、STU48はキングレコード)。スケールメリットを生かせるかも焦点になりそうだ。
新曲の表題曲には16人が「選抜メンバー」として参加。本田仁美さん(21)が前々作「元カレです」(22年5月発売)以来、2回目のセンターポジションを務める。「劇場版」の名称は「Official Shop盤」になり、「キャラアニ」ではなくAKB48の通販サイトから購入する仕組みに改める。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)