大手プレスリリース配信サイト「PR TIMES」で、人気スマートフォンゲーム「ポケモン GO」の位置情報を偽装する「チートツール」が宣伝されていたことが分かった。
ツールの使用はゲームバランスを崩壊させかねず、ゲームのガイドラインでも明確に禁止されている。PR TIMESの運営会社は取材に問題を認め、「コンテンツ基準に抵触するプレスリリースが配信されていないか、過去に遡り精査いたします」としている。
「実際に歩かずにポケモンを捕まえたりしてはいかが」
「【ベスト10】ポケモンGOの位置偽装アプリ」――。こんなタイトルのリリースが2023年2月22日昼、PR TIMESに掲載された。配信したのは、中国・深センに本社があるというIT企業だった。
ポケモンGOは、位置情報を使った人気スマホゲームだ。プレーヤーのいる場所をGPS(全地球測位システム)で特定し、現実世界を移動することで「ポケモン」や「ジム」などに巡り合うことができる。
リリースでは、ゲームの根幹を揺るがす「最高のポケモンGO向けGPS位置偽装アプリ」を、自社のiPhone向けツール含め多数紹介している。
「ポケモンGOで位置を偽装しても安全ですか?」との質問には、「専門的なツールを使うことをお勧めします」とアドバイスし、自社ツールは「100%成功」すると触れ込む。「ポケモンGOでのなりすましは禁止されますか?」(原文ママ)には「位置の偽装が検出された場合のみアカウントが停止されます」と問題性を認識するも、ペナルティは段階的だとして推奨の立場を貫く。
「iOSデバイスの脱獄も不要です」と「ジェイルブレイク(脱獄)」と呼ばれるiPhoneの改造手法にも言及し、「実際に歩かずにポケモンを捕まえたり、タマゴを孵化させたりしてはいかがでしょうか」と締めくくっている。
リリースは、提携メディアである時事通信やアスキー、exciteニュースなどにも配信されていた。
ポケモンGO運営も問題視
この会社は、21日にも自社のチートツールをPR TIMESで宣伝していた。
この時は利用想定サービスとして、ポケモンGOに加えて出会い系アプリや動画配信サービス「Netflix」などを挙げ、「偽装が見抜かれてアカウントを停止される心配がありません」と断言している。
23日にも、位置情報共有サービスのハッキング手法をリリースで喧伝していた。会社に取材を申し込んでおり、回答があれば追記する。
ポケモンGOの場合、位置情報の偽装はゲームのエコシステムを破壊するばかりか、有料アイテムの販売機会の損失にもつながりうる。運営を担うナイアンティック広報事務局は24日、「『位置情報を変更したり操作したりするツールや技術の使用 (位置偽装)』を含む不正行為を行わないよう呼び掛けております」と取材に答えた。
ゲームのガイドラインでは、位置偽装を明確に不正行為としており、違反した場合、「警告やアカウントの一時停止、ゲームプレイ体験の低下、または警告なしのアカウントの永久停止などを行います」と宣言している。
提携メディアに計25記事転載
PR TIMESは、東証プライム上場のPR会社「ベクトル」の子会社が運営する。サイトの規模は月間6600万ページビュー(22年11月)と影響力は小さくない。
PR TIMESに24日、取材を申し込むと、前述の3つのリリースは削除された。
なお、問題の企業以外にも、別企業による同様のツールが「神アプリ」などと紹介されているリリースも複数見つかっている。「(人気スマホゲーム)ドラクエウォークの位置情報をごまかす」と公然と記すものから、東京ゲームショウのイベント紹介と見せかけ途中からチートツールの宣伝を始めるものまである。こちらは24日21時現在までに削除されていない。
PR TIMESの担当者は、問題の3つのリリースは掲載基準に抵触すると判断し、削除および企業アカウントを停止したと明かした。提携メディアにも計25記事転載されたが、こちらも削除対応を進めているという。
PR TIMESでリリースを配信する場合、まず企業審査が必要になる。事業内容が独自に定める「コンテンツ基準」に満たしているかなどを確認し、通過すればリリースを掲載できるようになる。
一方、リリースは即時性を重視して事前審査はしない。配信後に、PR TIMES側で全件を目視でチェックする。要確認キーワードを自動通知するシステムも組み合わせて、コンテンツ基準違反がないか調べる。
見逃してしまった原因は
問題のリリースは、コンテンツ基準の「第三者又は当社に経済的または精神的な損害を与える内容」「第三者の知的財産権(特許権、意匠権、商標権、著作権等)を侵害する内容」「犯罪行為に結びつく、または犯罪行為を促す恐れのある内容」に抵触、またはその可能性があり、削除を決めた。
特に留意すべきと考えられる「要確認キーワード」を含み、優先的に確認すべきリリースだったにもかかわらず、「今回のようなケースがコンテンツ基準に抵触することを審査部門内でルールとして共有できていなかったことにより、審査部門で目視チェックを行った際にも当該プレスリリースがコンテンツ基準に抵触すると判断できませんでした」と不備があった。
本件を受けて再発防止策を講じるとし、「これまでに同様のコンテンツ基準に抵触するプレスリリースが配信されていないか、過去に遡り精査いたします」とした。
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)