北朝鮮は、2023年2月18日にICBM(大陸間弾道ミサイル)級の発射訓練を行ったと発表した。これは火星15号と呼ばれる北朝鮮のミサイル。北朝鮮の国営テレビによる発表によると、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が、事前に計画を伝えずに18日8時に命令を下し、10時間後に発射されたという。ミサイルは、日本のEEZ(排他的経済水域)内に落下した。
浜田靖一防衛大臣は、防衛省で記者団に対し、このミサイルについて「弾頭の重量などによっては、1万4000キロを超える射程となりうるとみられ、その場合、アメリカ全土が射程に含まれる」と述べた。
米中の気球問題での対立も関係か
今回、朝に不意打ちで命令して、10時間後に発射されたということで実戦配備されていることを示唆している。なぜ、このタイミングなのか。米中の気球問題での対立も関係していると筆者はみている。
実は、ブリンケン・米国務長官が18日、ドイツのミュンヘンで中国共産党の王毅政治局員と会談した。ブリンケン氏は、気球問題で4日に撃墜し中国への訪問を延期しており、両国高官が対面で話をしたのはそれ以来だ。
北朝鮮が、18日の米中外交トップ会談を事前に知っていたかどうかは分からないが、あまりに絶妙なタイミングだ。もちろん、アメリカに対して、相手は中国だけではなく、北朝鮮もいるとのアピールだ。これまでも北朝鮮は核とミサイルを開発することで、アメリカを交渉のテーブルに引きずり出そうとしている。
一方、日本の対応はどうか。岸田文雄総理大臣は「国際社会全体に対する挑発をエスカレートさせる暴挙だ」と非難。また18日19時すぎからNSC(国家安全保障会議)を開催した。
ミサイル発射を知りつつ、診療所に入った岸田首相
ただし、発射直後の岸田首相の行動は解せない。防衛省によると、18日17時21分ごろミサイル発射があり、18時27分ごろ北海道渡島大島の西方およそ200キロの日本のEEZ内の日本海に落下し、函館から落下の映像も撮られている。
岸田首相は、最初にミサイル発射の報告を受けたのは、東京都品川区の診療所に入る直前。発射の20分後に診療所に入り、治療後に官邸に戻り、NSCを開催したという。
要するに、ミサイル発射を知りつつ、診療所に入り、ミサイル飛行中に診療を受けていたわけだ。治療中も逐次報告を受け続け指示を行う態勢も整えていたというが、報告は治療に当たっていた関係者も聞いていたのだろうか。
このミサイルについては、破壊命令は常時出された形になっているとはいえ、これでは国のトップとして危機管理が不十分と言われても仕方ないだろう。普通の感覚ならば、ミサイル発射の一報を受けた時に、診療所に向かっていたとしても、診療所に入らずに官邸に戻り、NSCを開催後に、一段落してから例えば翌日に治療すべきだった。はたして、岸田首相に国民の生命と安全を守る覚悟があるのだろうか。なんとも悪いタイミングだったが、マスコミがこうした不祥事をあまり取り上げないのも解せない。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。