「残虐シーンがBPOの審議対象に」「いやいや、ガンダムだよ?」「BPO審議入りは仕方ないと思っている...」
2023年4月に2期の放送を控えるアニメ「機動戦士ガンダム 水星の魔女」をめぐり、放送倫理・番組向上機構(BPO)が「審議」しているとの情報が広がり、ファンらが困惑している。
しかし、審議入りした事実はなかった。青少年委員会で「議論」されただけで、審議はおろか「討論」すらされなかった。BPO広報も2月13日、J-CASTニュースの取材に否定する。「議論」「討論」「審議」はどう違うのか。
「自分も子どもも唖然とするばかりで言葉を失った」
水星の魔女は、22年10月から放送する「ガンダム」シリーズ最新作だ。MBS/TBS系の日曜17時のアニメ枠、通称「日5枠」が5年ぶりに復活し、満を持して選ばれた。
ガンダムのテレビアニメシリーズで初となる女性主人公など、往年のファン以外からも注目度は高く、放送日は毎回のようにツイッターのトレンドを席巻した。
放送は1月8日に最終話を迎えて4月からの2期を控えるが、ラスト回の演出が今になって注目されている。BPO青少年委員会(委員長:小児科医の榊原洋一氏)の1月24日の議事録が公開され、水星の魔女とみられる作品が議題の一つになったためだ。
委員会は、弁護士や大学区教授、ジャーナリストなど8人で構成される。毎月、視聴者から寄せられた意見などを議論している。
最終回のラストには、主人公が、婚約者を襲う敵を殺害するシーンがある。BPOには
「主人公の乗った戦闘ロボットの巨大な手で敵の人間を押しつぶす描写があり、その際に鮮血が広がり、つぶされた人間から分離した腕がヒロインに当たった。常軌を逸した不適切な描写と考える」
「小学生の子どもと見ていたが、あまりにショッキングなシーンに自分も子どもも唖然とするばかりで言葉を失った」
「放送時や予告時に残虐な映像に関する告知がなかった。この時間(日曜午後5時から)の放送としては、非常に不適切な映像表現だと考える」
などの意見が寄せられたという。
制作サイドに寄り添う委員も
担当委員は、「分離した腕が宙を舞うところでは鮮血の色を暗い色に変えているが、日曜の5時に家族で見るシーンではないだろう」と配慮が不十分との見方を示し、別の委員は「このシリーズは、わりあいほのぼのとした展開だったが、急に残虐なシーンが出てきたので、視聴者がびっくりしたところが大きいのではないか」と指摘した。
「小さい子どもは怖いかもしれない。ただ、つぶされた人間自体は描かず、飛び散る血を暗い色にしているなど、一定程度配慮された表現になっている」と、制作サイドに寄り添う委員もいた。
ツイッターで2月11日に議事録が拡散し、その是非が注目された。BPOの審議入りしたとして、今後の行方が気になる人は少なくなかった。
過去には、「機動戦士ガンダムSEED」の男女の描き方が審議となり、製作・放送した毎日放送は「今後は、低年齢の多くのこどもたちがテレビの前にいる時間帯の放送であることを十分念頭において、ご意見を、これからのストーリー展開に反映させるとともに、映像に関しての充分な配慮をする考えです」などとコメントしていた。
「議論」→「討論」→「審議」→「委員会の考え」or「見解」or「要望」or「提言」or「委員長談話」
しかし、水星の魔女が審議された事実はない。BPO広報が取材に答えた。
広報の話やBPOのウェブサイトによれば、青少年委員会は次の流れで話し合う。
まず、「青少年が視聴するには問題がある、あるいは、青少年の出演者の扱いが不適切だなど視聴者意見で指摘された番組」について、毎月の委員会で「議論」する。意見の選定基準は非公表。
その中で、問題のある可能性がある番組は「討論」に進む。水星の魔女が俎上に載った1月の委員会では「大きな議論はなく『討論』に進むものはありませんでした」としている。つまり、水星の魔女の議論はこの場で"打ち切り"されている。
議論の対象になったアニメは過去に多数ある。21年には、人気アニメを映画化した「『鬼滅の刃』無限列車編」とみられる作品が3か月に及ぶ議論になった。視聴者から「グロテスク」などと意見があり、委員からも懸念があったが、「人間のようなモンスターと捉えれば許容範囲では」「PG12指定(12歳未満は保護者の助言・指導が必要)の映画を21時台に編成しており、配慮がうかがえた」との意見が出て議論は終了した。
「討論」された番組の一部は「審議」入りとなる。この段階になるとメディアの注目も高まり、報道されやすくなる。放送局の制作担当者と意見交換をするなどして「委員会の考え」をまとめ、委員の3分の2以上の賛成があれば委員会の「見解」となる。いずれも公表され、後者は放送局に検討結果の報告を求める。そのほか、「要望」「提言」「委員長談話」との名での発出もある。22年4月には、「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」への見解を公表した。
BPOには青少年委員会以外にも、取材・制作のあり方や番組内容について問題がないか調査する「放送倫理検証委員会」と、放送で名誉、プライバシーなど人権侵害を受けたとの申立てを受けて審理する「放送人権委員会」がある。