脱色に長ける職人夫婦の協力があった
依頼主は、過去に池内友禅で振袖を仕立てた親子だった。娘が成人式で着た振袖を卒業式では薄い色で着たいと希望し、母と相談に訪れた。池内さんは「薄い色かぁ」と苦心した。着物の色を薄めることは基本的にはできない。しかし、抜染を得意とする職人には心当たりがあった。
池内さんによるとこの職人は、夫婦で何十年にもわたって研究を重ね、ほとんどの着物の色を抜くことができる技術を確立したという。過去にアンティーク着物の色を薄めてほしいという依頼を受けた際に、色抜きを頼んだことがあった。
「自分たちで仕立てた着物の色を抜いてもらうのは初めてでした。実際に依頼して、こんなに変わるんだ、あの赤色はどこに行っちゃったんだろうと驚きました。 着物の模様以外の部分の両面に、殊な抜染糊を用いて丁寧に色を抜いているのだそうです。約16メートルある柄付きの振袖の色を抜くというのは、技術から見ても作業量からみてもすごいと感じました」
振袖は、ほとんど真っ白な状態に。柄の部分は綺麗に元の色が残されていた。池内友禅では、白くなった着物の上から新たな色を加えた。「引き染め」という刷毛を引きながら染めていく方法で、白い着物が淡いピンク色に染め上げた。こうして染め替えられた着物を、依頼した親子は喜んでいたという。
池内さんは、「自分たちも驚いた技術をもっと多くの人に紹介し、興味を持ってもらいたい」と感じ、染め替えの様子などをツイッターで紹介したという。
「想像以上の反響があり驚きました。職人夫婦にもお伝えしたところ、喜んでいらっしゃいました。着物を再生する技術を培うことを生き甲斐だとおっしゃっていられたので、その技術を知ってもらえて嬉しかったようです」
池内さんは、今後も伝統的な手描友禅染の美しさや、染色の面白さを多くの人々に伝えていきたいと意気込んだ。
京都でも珍しい濃色の振袖を薄色に染め替えるお仕事。振袖の模様以外の色を特殊な抜染技術で色抜きして、上から新しい色で染めていきます。きれいに色が抜けすぎて嘘だと思われそうですが、本当です。 pic.twitter.com/QNDWDv42hp
— 池内真広 池内友禅 (@ikeuchiyuzen) February 5, 2023