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共産・志位委員長は「自分の口で言えばいいと思う」 「党首公選」への反応めぐりベテラン党員が抱いた違和感

   共産党で志位和夫委員長による「長期政権」が続く中、現役党員の松竹伸幸氏(67)が、著書「シン・日本共産党宣言──ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由」(文春新書)を出版し、党首公選を行うように求めている。

   共産党は、機関紙「しんぶん赤旗」に論説記事を乗せる形で松竹氏の行動を批判しているが、志位氏は「そこで述べられている通り」と、自らの言葉による説明を避けている。松竹氏はJ-CASTニュースの取材に対して記事に反論。「そういう低レベルな議論には関わりたくない」と突き放した。(全2回の後編)(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 共産党で党首公選を求めている松竹伸幸さん。写真はかつての職場前で撮影された
    共産党で党首公選を求めている松竹伸幸さん。写真はかつての職場前で撮影された
  • 共産党で党首公選を求めている松竹伸幸さん。写真はかつての職場前で撮影された

批判論説の筆者とすれ違って「なんか、すごくやつれていましたね...、下向いた感じで」

―― 党首公選論を批判した「藤田論説」(「規約と綱領からの逸脱は明らか ――松竹伸幸氏の一連の言動について」と題して1月21日の「しんぶん赤旗」に掲載された論説記事。藤田健・赤旗編集局次長が執筆した)への印象をお聞かせ下さい。予想通りの反応ですか、それとも「思ったよりも過敏に反応」したという印象ですか。

松竹: 実は先ほど共産党前で写真を撮ったとき、藤田さんとすれ違ったんですよ。すれ違った後に気付いたのですが...。声をかけた方が良かったかも。向こうも気付いていないと思います。なんか、すごくやつれていましたね...、下向いた感じで。それはともかく、当然、何らかの反応はあると思っていました。逆に、反応がなくてスルーされることが一番嫌でした。何か反応があって、党内の議論が盛り上がるというのが一番の目的なので、反応が出てきたことは、まずは歓迎です。ただ、赤旗の編集局次長の論文が出てくるとは思いませんでしたね。

―― 藤田氏は、64人しかいない「幹部会」メンバーでもありますね。にもかかわらず、赤旗の肩書きで記事を載せるのは不思議ですね。

松竹: 規約違反だと言うのであれば、規約問題を扱う規律委員会というちゃんとした部署があって、規約違反かどうかを認定するわけだから、普通ならその部署の人が書くでしょう。綱領についても同様です。にもかかわらず、赤旗の編集局次長が「松竹氏自身も同意したはずの党規約に違反する行為です」と認定しているのは意外です。

―― 謎の立て付けですね。

松竹: 謎なんですよ...!今でも、よく分かりません。それでいて、志位さんは「藤田論説に尽きております」に終始するという...。

―― 「藤田論説」では、今回の主張が規約に違反していると主張しており、規約第5条の以下を根拠にしています。どのように反論しますか。00年に採択された現行規約は、上意下達ではない「循環型」だともされていますね。

(5) 党の諸決定を自覚的に実行する。決定に同意できない場合は、自分の意見を保留することができる。その場合も、その決定を実行する。党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない。
(8) 党の内部問題は、党内で解決する。
松竹: 第3条の第1項と第2項には、それぞれ「党の意思決定は、民主的な議論をつくし、最終的には多数決で決める」「決定されたことは、みんなでその実行にあたる」とあります。これが基本的な現行規約の考え方ですが、「党首公選しない」って一体どこで議論して決めたのでしょうか?

党首公選否定した論文は「党の決定」なのか

―― 22年8月23日付で党建設委員会の名前で出された論文「日本社会の根本的変革をめざす革命政党にふさわしい幹部政策とは何か 一部の批判にこたえる」では、党首公選を行うと「必然的に、党首のポスト争いのための派閥・分派がつくられていくことになる」と説明しています。これが規約でいう「党の決定」なのかは疑義がある、ということですね。

松竹: もしこの見解を党の決定にしたいのであれば、例えば第7回中央委員会総会(7中総=23年1月開催)で議論して決定すべきでした。「党の決定」というからには、やはり全国大会で、それこそ全国の代議員が議論して大会決定になったのであれば、それは「党の決定」でしょう。ですが、何か一部局が、しかも国民の中では聞いたこともないような部局がポンと出したものを「それで決定だから、それに反することは言えない」となったら...。赤旗にはいろいろな論文が載るし、記者の署名入り論評だって出ます。「どれが決定で、どれが決定じゃないんですか?」みたいなことになるのではないでしょうか。赤旗に論文を載せたから、それが「党の決定」だというのは、ちょっと異常だと思いますね。

―― 以前の規約には「党の内部問題は、党内で解決し、党外に持ち出してはならない」とありましたが、00年に採択された規約では「党外に持ち出してはならない」の部分が削除されたと聞きました。つまり、現行規約の方向性を踏まえると、自分の考えを党外に発表することは、必ずしも規約違反ではない、という主張ですね。

松竹: そもそも党内問題、内部問題って何なんですか?ということです。綱領でも規約でも、大会決定でも、「党の内部問題」が定義されたことはありません。もちろん、党の外に持ち出してはならない問題があることは分かります。それでも、党首の公選、政治的・社会的に話題になっていることで、党の政策に関わるようなことも含めて、議論をしていくべきものです。

「そういう低レベルな議論には関わりたくない、付き合いたくないですよね」

「赤旗」日曜版のパネルを眺める松竹伸幸さん
「赤旗」日曜版のパネルを眺める松竹伸幸さん

―― 「藤田論説」後半では、松竹さんの主張について「自衛隊は違憲という党の綱領の立場を根本から投げ捨て」ているとしています。さらに、綱領では「日米安保条約廃棄の旗を高々と掲げています」ともあります。共産党の原則的な立場ではありますが、共産党が参加する「野党連合政権」の構想では自衛隊も日米安保も容認しているわけで、非常に先鋭化した形で情報発信している印象です。「長い間党に在籍しながら、綱領を真剣に学んだことがあるのでしょうか」とまで主張しています。人格攻撃のようにも見えますが、どう受け止めましたか。どう反論しますか。

松竹: 率直なところを言うと、そういう低レベルな議論には関わりたくない、付き合いたくないですよね。本気でそういうふうに思っているのか?と思います。志位さんは悩んで、(自衛隊)活用論も言わないと駄目だと思ったし(編注:00年の第22回党大会決議で「急迫不正の主権侵害、大規模災害など、必要にせまられた場合には、存在している自衛隊を国民の安全のために活用する」ことが盛り込まれた)、違憲というのでは通用しないと思ったわけです(編注: 共産党としては自衛隊は違憲だが、共産党が参加する「野党連合政権」としては容認する、という立場を表明している)。私は、志位さんは志位さんなりに、すごく葛藤があったと思っています。志位さんって、憲法9条を心から愛していて、本当に平和主義者なんです。
 私が学生の頃、(志位氏の出身校でもある)東大の人と交流することがあって、びっくりしたことがあります。東大で共産党に入った人の新入者教育では、要するに「9条があるおかげで日本の独立が妨げられている」という教え方をしているんですね。そういう教育をされている党組織の中で、志位さんは「9条絶対」という自分の立場を確立してきた人です。1994年に9条を将来にわたって堅持する方針を打ち出し、「中立自衛」から「非武装中立」へ転換し主導したのも志位さん。それを党首の不破さん(当時委員長だった不破哲三氏)が自衛隊活用論をテレビ討論を通じて言い出して、志位さんは00年の党大会で、自衛隊活用論を盛り込んだ決議を準備せざるを得なくなったわけです。これは推測ですが、「こんなこと言わないと駄目なのか」といった心境で準備していた。だからこそ、私なんかが平気で自衛隊活用を主張したときに、すごく怒って批判したのだと思います(編注: 松竹氏は、この時の対立が原因で共産党を退職している)。その志位さんが15年の安保法制を機に「国民連合政府」構想を掲げて「これで野党政権を」と決断したときに、自分の信念をそのままにしておいては駄目だということで、自衛隊活用論や合憲論を、苦しみながら言っているはずなんですよ。それになのに(「藤田論説」の内容で)藤田さんが本気だったとしたら、そういう自分の党の党首の苦悩を全く理解していない。だから、そういうのには、できるだけ付き合いたくありません(苦笑)。

共産党は「やる気になれば何でもできる」と思っているところがある

―― 記者会見後、共産党側から何らかのコンタクトはありましたか。「藤田論説」が載っただけですか。

松竹: 今のところはありませんが(編注:インタビューは1月27日に収録された)、何かあるかもしれないという感じはしています。

―― 今回の件をきっかけに、何らかの処分、最悪の場合、除名や除籍されるリスクは感じていますか。先ほど話題になった故・萩原遼氏は05年に除籍されましたが、党首公選制ではなく、北朝鮮問題をめぐる発言が原因でした。

松竹: まあ、(処分の見通しは)分からないと言えば分からないのですが...。党の規約違反の中で最悪のものは「分派」だとされています。ところが藤田論説では、私に対して規約違反だとは言っていますが、分派活動だとは一言も言っていません。記者会見の運営も党員以外にお願いしたり、そこは本当に気を遣っています。藤田論説には「松竹氏は『党規約に反することのないよう、慎重にやっています』などと言っていますが、それは党規約をまったく理解していないものと言わなければなりません」とありますが、一般的な規約違反に言及しているに過ぎません。そこまで引用するのであれば分派について(の記者会見の発言)も引用しろよ、と思いますね。これは共産党の一番悪いところなのですが、「やる気になれば何でもできる」と思っているところがあるので、まだまだ分かりませんね。

―― ツイッター上では、共産党支持者とみられる人から、「WiLLやHanada、週刊新潮で共産党批判を展開するのでは」といった指摘も出ています。

松竹: それは全然ありません。私の基本的な目標は、24年1月の党大会で「党首公選をやる」ことを代議員の多数で議決することにあります。そのためには、代議員には私の訴えに共感してもらわないといけません。この点からすると、どのメディアにどのように出るかは、いろいろ選んでいきたいと思っています。

―― 記者会見では、党首選について「立候補には1000人程度の党員による推薦が必要」といった制度設計を披露していました。「アンチ共産党」になったら、党首公選も実現しませんし、立候補もできませんね。

松竹: 全くその通りですね。そんなことになったら、党首公選なんて共産党の中では話題にもならなくなって、「否定すべきもの」みたいになってしまいます。

志位氏が記者会見で「あの論説につきる」と繰り返す理由

―― 志位氏は、1月23日のぶら下がり会見、26日の定例会見で「あの論説につきる」と繰り返し、自分の言葉で見解を述べませんでした。松竹さんの処分についても言及しませんでした。この状況をどう受け止めますか。安倍晋三元首相が17年の衆院予算委で、改憲までのスケジュールを問われて「相当詳しく読売新聞に書いてありますから、是非それを熟読していただいてもいいのでは」と答弁し、不興を買ったことを思い出す人もいるようです。こういう反応をせざるをないのは、やはり松竹さんの行動が共産党にとって相当具合が悪いというか、「効いている」のでしょうか。

松竹: どうなんでしょうね...。藤田さんの見解と同じことを言うのであれば、自分の口で言えばいいと思うのですが...。藤田論説と違うところに踏み込んでいくのであれば慎重になるのは分かりますが、ちょっと根拠が分かりません。しかも26日の記者会見では、記者が色々と突っ込んで、「もし質問があるんだったら、あなた自身の質問として提起してほしい。そうしたら答えます」とも言っています。記者は自分の質問をしているわけで、何を言いたいのか分かりません。おそらく(藤田論説は)公式見解として出しているわけですよね。もちろん志位さんも何重にも点検した上で、今後の物事は全て枠の中で処理していこうという、おそらく「決まった何か」があるのだと思います。だから、それと別のことを言ったら、「決まった何か」が崩れる、といった懸念があるのではないでしょうか。はっきりしたことは分かりませんが...。

―― 個人的な推測ですが、共産党としては、除籍や除名を避ける形で事態をうまく収めないと、ライトな支持層や無党派層の心証が相当悪くなるので、針の穴に糸を通すような、何らかの方向性を模索していると想像します。

松竹: 先ほどの自衛隊合憲論でもそうですが、志位さんは自分の頭の中ですごく緻密に組み立てて、「これしかない」「これだったら通じる」みたいな思い込みになってしまって、それが国民に通じないかもしれない、という考えはあまりないんですよね、おそらく現時点では。「藤田論説どおり」という答えも、相当自分なりに「これしかない」と考えた結果だとは思います。

―― 松竹さんにとっては「まな板の鯉」ですね。

松竹: 結局、考えたつもりでも、(党としては違憲でも、政権に入った時は)自衛隊合憲論のように通用しないことが多いので...。それで私が困るというか怯えるというか、「どうしよう」みたいなことは全然ありません。私も自然体でいくしかありません。

松竹伸幸さん プロフィール
まつたけ・のぶゆき 1955年長崎県生まれ。79年一橋大学社会学部卒業。89年から2006年にかけて日本共産党中央委員会で勤務。その間、国会議員団秘書、政策委員会・安保外交部長などを歴任した。現在、ジャーナリスト・編集者。かもがわ出版編集主幹、日本平和学会会員、「自衛隊を活かす会」(代表・柳澤協二)事務局長。専門は外交・安全保障。『反戦の世界史』(新日本出版社)、『9条が世界を変える』(かもがわ出版)、『レーニン最後の模索』(大月書店)、『憲法九条の軍事戦略』『対米従属の謎』(平凡社新書)、『慰安婦問題をこれで終わらせる。』(小学館)、『改憲的護憲論』(集英社新書)、『「異論の共存」戦略』(晶文社)など著書多数。