話題の人工知能(AI)サービス「ChatGPT」を活用した記事自動作成ツールを日本のIT企業が開発し、メディア関係者の間で注目されている。すでに複数の媒体が試験導入し、記事作成の時間を10分の1にまで減らせたという。
一方、執筆業務をAIに肩代わりさせた海外の大手メディアでは問題も起きている。
10の記事制作ステップ→半分以下に
米OpenAI社が開発したChatGPTは、任意の文章を入力することでAIが応答する自動会話プログラムだ。
2022年11月に公開されると、精度の高さがまたたく間に話題を集め、様々な分野に応用できると期待されている。
日本のIT企業「chipper」は23年1月31日、メディア向けにChatGPTを使った記事自動作成ツール(テスト版)を提供すると発表した(※当初のリリースでは「ChatGPTを利用」と説明していたが、2月3日夕までに「ChatGPTに使われている人工知能(AI)を活用した」と注釈なしに変更されている)。
グーグルやヤフーなど検索サービスからのアクセスに力を入れるメディアを対象とし、「SEO(検索エンジン最適化)」に効果的な記事が手軽に作れると訴求する。
Chipperのプレスリリースによれば、SEOを意識した記事作成には多くの作業が発生し、「工数を割くことができず運用を断念し、集客に限界が生じてしまう」といった相談が多く寄せられていたという。一般的には次の10のステップがあり、chipperのサービスを使えば2~7の行程を自動化できるという。
1.キーワードリサーチ:トレンドや検索頻度、競合状況などから適切なキーワードを選定する。
2.タイトルの作成:キーワードを含む適切なタイトルを作成する。
3.コンテンツ計画:記事の構成やポイントを決定する。
4.調査:対象のトピックに関する詳細な情報を調べる。
5.概要の作成:調査した情報をもとに記事の概要を作成する。
6.本文の作成:概要をもとに詳細な本文を作成する。
7.キーワードの適切な配置:本文に適切なキーワードを配置する。
8.インタラクティブな要素の追加:記事に画像やグラフなどのインタラクティブな要素を追加する。
9.エラーチェック:記事のスペルミスや文法エラーをチェックして修正する。
10.リンクの追加:他のサイトや記事とのリンクを追加する。
新聞社でも活用実績
すでに月間1600万ページビューを記録するメディアなど複数の媒体社が試験導入し、記事作りの時間を10分の1にまで減らせたという。
新たな試みは、メディアやウェブマーケティングの関係者の間で注目された。SNSでは評価する声がある一方、低品質な記事が量産されるのではとの懸念や、記事の信ぴょう性に懐疑的な見方も広がっている。
chipperはリリースで、「ChatGPTの不確実性への対応のため、ベータ版サービスにおいては弊社担当者によるファクトチェック・ブラッシュアップを挟んだ形でサービスを提供します」とする。J-CASTニュースは同社に取材を申し込んでいる。回答があり次第、追記する。
メディア業界では、記事制作業務でのAI活用が進んでいる。
日本経済新聞社は2017年から、企業決算をAIを使って自動で記事化している。日経、言語理解研究所、東京大学松尾研究室の三者で試験的に取り組んでいる。売上高や利益などのデータとその背景や理由などを抽出し、日経の所定の表現に合わせて数分で完成する。人によるチェックや修正はしていないという。
静岡新聞社も、23年1月25日付の朝刊1面コラム「大自在」の一部でAIを使った。rinna社のAIに過去5年分の同コラムの内容を学習させ、生成された300通りの候補から1つを採用した。記者が「人工知能(AI)は」と書き出しだけ指定し、AIは「産業や社会の自動化・能動化に大きな成果を上げている。その恩恵に浴する社会起業家は増える一方で、産業や社会のシステムそのものの改善には至っていない」と続けた。
アメリカでは日本に先回りして問題発生
米BuzzFeedは、2023年中にOpenAI社のAIをコンテンツ制作の肝にすると報じられている。流出したジョナ・ペレッティ最高経営責任者(CEO)の社内文章では「AIを使ったコンテンツが研究段階から当社の中核ビジネスの一部となる」と意欲を見せ、クイズなどへの活用を想定しているとする。
文章では「インターネットの過去15年間が、コンテンツを収集してレコメンドするアルゴリズムによって定義されたとすれば、次の15年は、AIとデータがコンテンツ自体の作成、パーソナライズ、アニメーション化を支援することによって定義されるだろう」とも記している。米紙ウォールストリート・ジャーナルは、ペレッティ氏が「経費削減のため、低品質のコンテンツを作成するためだけに、AIに頼る選択をしたデジタルメディア企業は、AI技術を誤って使っている」と会議で発言したと取り上げている。
問題を引き起こしたケースもある。米CNETは22年11月から秘密裏に77本の金融サービス系の記事をAIに書かせていたが、誤りや盗用が疑われ、1月中旬に釈明する事態となった。
米TheVergeは、検索結果の上位を狙ったSEO目的のアフィリエイト(成果報酬型)記事でAIが活躍していたと考察し、「冷笑的に見ると、AIを導入することは完全に理にかなっている(中略)AI はコンテンツ作成のコストを下げ、クリックごとの利益を増やす」と皮肉った。アフィリエイトは、例えばクレジットカードや住宅ローンの比較記事を通じ、読者が提携企業のサービスに申し込めば媒体社は手数料を得られる。
米TheVergeによれば、AIの専門家の中には「AIのライティングツールが安価で簡単にコンテンツを生成できることから、AI文章が徐々にウェブを支配し、読者を特定の製品やウェブサイトに押しやるためだけに作られた文章で検索結果やソーシャルメディアを汚染する可能性がある」と予測する人もおり、ネットの情報環境の悪化が懸念される。