ついに死の宣告が来ました――。あるゲームセンターのツイートが話題を呼んでいる。世界的な燃料価格上昇などのあおりを受け、店の電気代が2023年4月から5割以上も上昇。経営を圧迫するほどの大幅な負担増に、店長は「目の前が真っ暗」と嘆く。
業界に詳しい識者は、電気代の値上げは小規模のゲームセンターにとって「極めて深刻」な影響を与えると指摘する。
電気代5割以上値上げの手紙に「しばらく呆然」
岡山県倉敷市郊外にある「ファンタジスタ」は2002年に開店したゲームセンター。店主の大島幸次郎さんが営む個人経営店で、開店当時から売りの格闘ゲームなどビデオゲームに特化したラインアップが特徴だ。
23年1月23日、大島さんのもとに、店が契約している中国電力から、電気代の改定を知らせる手紙が届いた。そこには、今年4月1日からの電力量料金単価が5割以上増える旨が記されていた。
「今までの1.5倍以上という単価の上昇幅に目を奪われてしばらく呆然としました。2022年の電気代がすでに前年比で3割ほど上昇していたこともあり、そこからさらにここまで値上がりすることは想定しておらず衝撃でした」
大島さんは1月24日のJ-CASTニュースの取材に、電気代の増加を知ったときの心境をこう振り返る。手紙を受け取ったその日のうちに、たまらずツイッターでつぶやいた。
「ついに死の宣告が来ました。4月から電気代が5割以上値上がりです。目の前が真っ暗に・・・。試算では年間で150万~200万ほどの負担増の見込みです。1日でも長く続けられるように頑張るつもりですが、かなり厳しいと思います。最後まで応援してもらえますと嬉しいです」
大型の業務用ゲーム機を複数備えるゲームセンター。大島さんによると、店舗の運営コストにおける電気代の割合は、コロナ前まで15%前後だったという。しかし、コロナ禍以降は20~25%程度まで増加し、今回の料金値上げで30%を大きく上回る見通しだとする。
ゲームセンターの運営に大きな影響を与える電気代。コロナ禍以降は利用客がいなければ閉店時間を早めるなどして、電気代の節約を図ってきた。しかし、今回の値上げ幅の大きさは想定外だったとし、「正直な感想として『もう無理かもしれないな・・・』ですが、これはお客さんの前では言えない言葉です」と話す。
ゲームセンターの「値上げ」難しい理由
大島さんの投稿を受け、ツイッター上では他のゲームセンターからも、電気料金高騰の影響を受けているという声が相次いで聞かれた。中には、電力使用量を減らしたにもかかわらず、昨年12月の電気料金が前年同月と比べて増加したという投稿もあった。
22年2月から続くロシアによるウクライナ侵攻の影響により、火力発電に使われるLNG(液化天然ガス)や原油などの燃料価格が高騰。電気料金の増加を招いた。事態を受け国は23年1月使用分から電気料金を補助している。しかし、東京電力や中国電力など大手電力7社は、家庭の多くが契約する「規制料金」を23年4月以降に値上げすることを国に申請。今後の家庭や企業の大幅な負担増加が見込まれる。
事業者にとっては、電気料金の上昇分をサービスの値上げでカバーするという選択肢も考えられる。しかし、大島さんはゲームセンター業態での値上げは難しいと話す。
「値上げをしたとしてもユーザーが1日に消費する金額が変わらなければプレイ回数が減るだけなので、かえってお店が寂しくなり逆効果になりかねません。そもそもコインオペレーションのため(1プレイ)100円を200円にするくらいしか値上げ方法がなく、非常に難しいです。電子マネーの導入もよく言われますが、導入費用だけでなく手数料等のコストがかかるため店舗にメリットがありません。現実的には売上増加が見込める機種を積極的に導入していくしかありませんが、リスクを伴います」
大島さんは店舗の存続に向け、ライブ配信サイト「Twitch」の支援機能やパトロンサイトを通じた運営支援を呼びかけていきたいとする。その上で、電力会社と国に「原発にリスクがあることはわかりますが、動かせるものは動かしてほしい です。電気代の負担は国民全体の問題なので、娯楽業である自分たちは国民生活が豊かになることが一番の支援策になります。(電気代の)値上げを先送りしてほしいです。原発稼働後に電気代が安くなる時に今の赤字を転嫁して今の国民生活を守ってほしいです」と訴えた。
識者「もはや新たに打つ手がないに等しい状況」
警察庁のデータによると、全国のゲームセンター等(風俗営業5号営業)の営業許可数は、1986年の2万6573軒をピークに、2021年には3882軒まで減少。ゲームセンターが減った背景には、家庭用・携帯ゲーム機やスマホゲームの普及などがあると指摘される。
コロナ禍による外出自粛も、ゲームセンター運営に打撃を与えた。ただ、ゲームセンターでの店長経験があり、日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表のライター・鴫原盛之氏は1月26日、取材に「2022年のオペレーション(店舗)売上高が、月次ベースで見るとコロナ禍以前(19年)の数字にほぼ回復しているオペレーター(事業者)も現れている」と説明する。
背景にあるのは利用者が景品(プライズ)を獲得できる「クレーンゲーム」の好調で、ゲームセンターの中には近年は収益性の低いビデオゲームやメダルゲームの代わりにクレーンゲームコーナーを広げる例が多く見受けられるという。クレーンゲーム同様、「ガチャコーナー」の導入も進んでいるとした。
ただ、昨今の電気代の大幅値上げは、資金繰りが厳しく、ビデオゲームを中心にラインアップする小規模店舗には深刻な影響を与えると指摘する。
「昔ながらのビデオゲーム中心の小規模店舗は極めて深刻で、このままでは今春以降に発売が予定されている新作タイトルの購入や、バージョンアップのための資金が用意できない店舗が続出することが予想されます。どこの店でも、諸経費の削減や不人気タイトルの撤去、売却など、可能な限りの経営努力はずっと以前から行っており、今なおコロナ禍が続く状況では、大規模な集客イベントを開催したくても開催するのは難しく、もはや新たに打つ手がないに等しい状況です」
また鴫原氏は、コロナ禍に金融公庫から融資を受け、現在も返済中の個人経営・小規模事業者にとっては、今回の電気料金高騰を受けた返済計画の根本的な見直しが「必至の情勢と言えるかと思います」とする。小規模ゲームセンター存続のためには「行政からのさらなる経営支援、あるいはゲームメーカーが新作の発売時期をスライドするなどといった、早急な対応が必要ではないかと思われます」とした。
「ファンタジスタ」店長の大島さんは「『今日はいつもより少し多めに遊ぼう』『両替した100円は使い切ろう』『財布の中の100円を使い切ろう』のような小さい積み重ねが(店にとって)大きな力になります。具体的に言えば、一人あたり1日300円多く遊んでもらえればうちはこの危機を乗り切れます」とし、「友達同士で声をかけあってお店に足を運んだり、お店で仲間を見つけたりして楽しい時間を過ごしてほしいです」と呼びかけた。
町のゲームセンターが、厳しい春を迎えようとしている。