東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件で、KADOKAWAは2023年1月23日、外部の有識者による調査報告書を公表した。
調査委は、事件の原因に「会長であった角川氏の意向への過度の忖度とそれを醸成する企業風土」を挙げ、それを物語る社員の声を紹介している。
「法律をなめている」「物事はこうして進むんだ」
東京五輪・パラリンピックのスポンサー選考において、KADOKAWAの角川歴彦元会長(79)らは、電通元専務で大会組織委員会の高橋治之元理事(78)への贈賄疑惑がある。角川氏は東京地検特捜部に起訴され、22年10月に会長の職を辞任した。
調査報告書では五輪疑獄の一端を明らかにしており、原因の一つに角川氏の絶対的な権威を挙げる。
KADOKAWAは高橋氏の知人が経営する会社とコンサル契約し、7665万円を支払った。松原眞樹社長(当時)は、コンプライアンス(法令順守)面で強い違和感を覚えていたが、周囲から会長も了解している旨を告げられ、「『ああそうなのか』という感じで、ため息というか、それ以上、覆すようなことは仰らなかった」(五輪案件を担当した2021年室の元担当者)。
知財法務部も贈賄となる恐れがあると判断し、「客観的に見ると限りなく黒に近いグレー」「非常に危険」「相当懸念している」と忠告していた。しかし、「経営トップの意思であるという認識が伝播してしまった」ため、「もはや本件を止めることは不可能との諦念に至らしめてしまった」。知財法務部の担当者は調査委に「法律をなめている」と経営陣の意識の低さを指摘し、別の従業員は「どれだけ現場が研修を受けても、上がコンプライアンス違反を指示してしまったら、一社員にはそうそう覆せない」と不信感を漏らした。
ヒアリングに応じた元2021年室室長の馬庭教二被告(角川氏とともに起訴)は、角川氏から「(君は)やりたいんだよね」「物事はこうして進むんだ」と賄賂を正当化していると受け取れるような助言があったと証言している。
「会長に叱られることを恐れての虚偽報告」
角川氏は、社内外で「角川家は君臨すれども統治せず」と吹聴していたという。しかし、実態は違ったようだ。
角川氏は社内規定上、業務執行において具体的な権限は持っていない。しかし、「会長案件」と呼ばれる肝いりのプロジェクトが多数あり、主に次のような特徴があるという。
・赤字事業であってもやらざるを得ない
・忖度により、バラ色の事業計画が作成される
・社長ですら、事業撤退、縮小の判断を適時に行うことができない
・会長のわがままについては誰も言えない
・会長に叱られることを恐れての虚偽報告
・(一部案件につき)KADOKAWA と財団(公益財団法人角川文化振興財団)とが渾然一体で取引関係や費用負担が不明瞭な部分がある可能性がある
「会長デビュー」という社内の関連用語もあり、人事評価、人事異動での強い影響力がうかがえる。局長クラスの人事の際、角川氏と面識のない人物だと「一回会わせろ」という慣例があり、了解がないと昇進できないという。
ある社員は、角川氏の権勢を実感したエピソードをこう振り返る。
「会長と打合せをすると、社長の松原氏が、エレベーターの扉が閉まるまで、90 度のお辞儀をして見送る。松原氏が、会長をお見送りして、エレベーターの扉が閉まるまで 90 度のお辞儀をするというのは、結構な権力関係、見え方だと思う。それは、(本件のような案件を)止めれないんじゃないですかね、という感じ」
調査委は、事件の要因を「とりわけ会長であった角川氏の意向への過度の忖度とそれを醸成する企業風土に本件の根本的な原因があったと考えられる」と指摘し、ガバナンス(企業統治)の改善を提言している。