共産党の志位和夫委員長が20年以上にわたって党のトップを務める「長期政権」が続くなか、党員による公選を求める声が公然とあがっている。
2023年1月19日には、党職員を長く務め、今でも党員の松竹伸幸氏(67)が著書「シン・日本共産党宣言──ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由」(文春新書)を出版し、都内で記者会見を開いた。松竹氏は、現状を「国民の常識からはだいぶかけ離れている」と指摘し、党首選を通じて党内の議論をオープンにすべきだと訴えた。
小池氏パワハラ事案、地方から批判出て「国民に近い存在になるということを示した」
松竹氏は一橋大卒業後、日本民主青年同盟(民青)役員を経て1989年に国会議員秘書として共産党に就職。党政策委員会で安保外交部長などを歴任した。自衛隊の位置づけをめぐる解釈で志位氏と対立して06年に退職してからは、「かもがわ出版」編集主幹などを務めている。
共産党のトップの肩書き「委員長」は、正式には「幹部会委員長」。党大会で選ばれる約200人の中央委員会が決めることになっているが、大半の議案が全会一致で決まり、党内の政策論争が国民の目に触れることは皆無といっていい。
松竹氏によると、党内は必ずしも一枚岩ではなく、その様子を国民に見せることで、党が国民に近い存在になると考えている。
「共産党の内部に入ってみれば、本当にいろいろな考え方の違い、個性の違いというものがあってそれがぶつかり合う場面がたくさんある。そういうものを見せた方がいい」
党内から異論が出たケースのひとつが、22年11月に起きた小池晃書記局長によるパワハラ事案だ。党内の会議で小池氏が田村智子政策委員長を叱責(しっせき)する様子が動画で拡散され、地方議員もツイッターなどで批判した。共産党は小池氏の行動をパワーハラスメントと認定し、口頭による警告処分にした。松竹氏は、この経緯を前向きに受け止めている。
「『上は下に従う』というのは、上の中にはまだだいぶ残っていると思うが、それは共産党の現場の中では、やはり通用しない話。現場の声が通用して、共産党自身がちゃんとした国民に近い存在になるということを示したという点では大事なこと。しかもそれ(異論を発信したこと)が処分もされなかったということは、ああいうやり方が、共産党のやり方として定着していく一つのステップになるのではないか」
記者会見の手伝いを党員に頼まなかった理由
志位氏が共産党トップに就任したのは00年。それ以来の「長期政権」になっていることを、松竹氏は
「国民の常識からはだいぶかけ離れているということは言わざるを得ない」
と指摘。次のように話し、新陳代謝を訴えた。
「共産党の中には、実は能力のある人がたくさんいて、別に志位さんじゃなければできない仕事ではないのに、慣例で長くやってきた。自分が途中でやめたら『能力ないよね』と思われてしまうみたいな、何か思い込みというか恐怖感みたいのがあるのではないか」
ただ、「志位さんに退陣を求めるということを言ったことは、1回もまだありません」とも話し、公選制の主張は志位氏に対する退陣要求ではないとしている。
「私の場合は『党首選挙で堂々と議論をしあおうよ』、そこが目的なので、その結果として『やっぱり志位さんがいいよね』となる場合だって、もちろんある。その時に『退陣しろよ』みたいなことではない」
志位氏は23年1月10日掲載の読売新聞のインタビューで、「党の組織原則は『民主集中制』」だとして、
「党員が直接投票権を持つことは組織原則の精神と異なります。必ず派閥ができるからです。派閥間でばらばらなことを言うと、党として前進できません」
などとして党首公選には否定的な見解を示している。これは、1950年代に党が分裂した「50年問題」を背景に、党規約に「党内に派閥・分派はつくらない」と明記されていることを念頭に置いている。
松竹氏も、「共産党が分派についていろいろ心配する事情はわかる」。公選制を主張するにあたって、他の党員に相談することを避けたり、記者会見の手伝いも党員以外に頼んだりするなど、「分派」活動とみなされる可能性には警戒している。その上で、「公選制の主張=分派」との見方には、次のように反論した。
「党首当選はこれまでやったことがないのだから、『党首公選をやれば分派につながる』いうのは、そういう事実が過去、共産党の100年の間に一度たりとも起こったことではない。そういう点では、事実でない推論、推測で、こんな大事な問題の議論を終わらせてはならない」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)