「誕生して数ヶ月の命。人害により奪われました」 奈良公園の小鹿「こつぶちゃん」死亡、支援団体がルール順守呼びかけ

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   奈良公園のシカの見守り活動をする一般社団法人「NARASHIKA」が2023年1月中旬、小鹿の死去を伝えた。衰弱死とみられる。

   人間が遠因の可能性もあるとして、園内でのルールを順守するよう求めている。

  • 奈良公園ウェブサイトより
    奈良公園ウェブサイトより
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「意外と知らない人が多い気がする」

   奈良公園には約1200頭のシカが生息し、国の天然記念物にも指定されている。

   NARASHIKAは1月14日、そのうちの一頭である小鹿が死亡したとツイッターで報告した。「こつぶちゃん」の愛称で親しまれ、生後5か月ほどだった。懸命の治療もむなしく、「誕生して数ヶ月の命。人害により奪われました」と強い言葉で訴えている。

   こつぶちゃんは親から育児放棄されており、前日から衰弱していたという。人間が小鹿に触れて匂いがつくと、母鹿が子育てを放棄するといわれている。ツイートは、人間の接触が死亡した遠因だったと示唆するものだ。

   投稿は多くの注目を集め、「みんなに愛されてたこつぶちゃんこれは悲しい」「もう、こういう事は起きてほしくない」と悲しみが広がっている。

   「鹿は触らない、大々的に周知が必要だよね...」「意外と知らない人が多い気がする...深刻な問題」とシカの生態が十分に知られていないとの指摘もあった。

「人が来るたびに『かわいい』と触られ...」

   NARASHIKAの担当者はJ-CASTニュースの取材に、経緯を次のように話す。

   こつぶちゃんは12日昼ごろから具合が悪い様子で、夕方には座り込んだまま動かなくなった。保護施設「鹿苑」を運営する一般財団法人「奈良の鹿愛護会」の職員を呼ぶも、かろうじて動けたため様子見となった。

   不安が拭えず、NARASHIKAの代表理事が13日朝に愛護会の獣医師を呼んだところ、「かなり衰弱している」と保護して治療することになる。しかし14日朝に愛護会の職員が出勤すると、冷たくなっていた。

   こつぶちゃんは生後すぐに育児放棄されたとみられ、公園に足しげく通う人から気にかけられていた。

   NARASHIKAの担当者は「小鹿は一般的に春に生まれるのですが、こつぶちゃんは夏に生まれました。そのため体が小さく、痩せていて、目撃されやすかったです。『小さくてかわいい』と(生後まもなく)触られてしまったのではないか」と推測する。

   愛護会はSNSで「子鹿には絶対に触らないでください。子鹿に人間の匂いが付いてしまうと、お母さん鹿が子育てをしなくなります。お母さん鹿がいなくては、子鹿は生きていけません」と呼びかけている。県奈良公園室も動画サイトで、同様の注意喚起をしている。母鹿が小鹿を守るため人間を襲う恐れもあるという。

   担当者は「知らない人が大半だと思う」と問題提起し、公園内での掲示板やアナウンスなどを通じてルールを周知する必要性を訴える。

「小鹿を触る方は本当に多い。私たちは頻繁に奈良公園に訪れていますが、来園者は大人の鹿よりも小鹿に断然触りたがる。こつぶちゃんも弱っていたため動きがゆったりしていて、余計に触られていた。人が来るたびに『かわいい』と触られ、そのたびに注意していました。特に外国の観光客の方に多いです」

小鹿を取り巻く厳しい環境

   愛護会は18日、取材に「毎年そうですが、生まれて一歳になるまでの死亡数は多いんです。(こつぶちゃんは)小さい鹿で冬を越すのはしんどかったのではないか」との見方を示す。奈良教育大の鳥居春己特任教授らの研究では、1歳末までにほぼ半数が死亡すると推定している。これは、一般的な野生鹿の初期死亡率と同様だという。

   小鹿は生まれて1~2か月は乳を飲み、その後は自力で食べ物を探す。母鹿の性格によっては面倒をみない鹿もいるという。

   冬の時期は寒く、食べ物も少ない。野生のシカにとっては過酷な時期だ。愛護会の2022年の死亡頭数調査では、全体の約1割にあたる130頭が死んでいる。死因の最多は「その他」(多くは不明)の54頭で、疾病(49頭)、交通事故(27頭)と続く。小鹿は231頭生まれており、前述の研究を参考にすれば110頭あまりが命を落とす計算になる。

   愛護会は負傷や病気の鹿はなるべく保護する方針だが、衰弱した鹿は状況次第となる。県は奈良公園の鹿は飼育されていない「野生生物」との考えで、人が介入する際は慎重さが求められる。

   環境が変わればストレスになってしまい、獣医師は一人しかおらずリソースも限られている。

   来園者のマナー問題については、出産時期には園内で広報しているものの、やはり職員の数の関係で限界があるという。

   奈良県が22年4月にまとめた「奈良のシカ保護計画」では、観光客による鹿せんべい以外の給餌やゴミ誤食による健康被害、車両との接触事故などここ数年で多くの課題が表面化していると指摘する。

   県は「『奈良のシカ』と人とのふれあいの健全化」「『奈良のシカ』車両との交通事故防止」「重点保護地区における『奈良のシカ』の生息環境の改善」「『奈良のシカ』による農業被害・生活被害の軽減」の4つを目標に掲げ、解決を目指すとしている。

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