大学生協の食堂の待ち時間が増えたと、ツイッターで多くの学生が嘆いている。きっかけはスマートフォン向けアプリ「大学生協アプリ(公式)」の導入だった。大学生協の組合員証として用いることができるアプリで、生協内で使える電子マネー機能を有する。しかし動作が遅いなどの理由から、複数の大学内の生協食堂で混雑が発生したようだ。
アプリの開発を進めている大学生協事業連合は2023年1月16日、J-CASTニュースの取材に対し、厳しい意見も真摯に受け止め、引き続き対応・改善を進めていくと述べる。
「食堂の待ち時間が今までの3倍以上になってる」
大学生協事業連合は、大学生協の組合員証をICカードからアプリに移行を進めている。アプリ配信サービス「Google Play」と「App Store」から「大学生協アプリ(公式)」をリリースし、北海道、東北、東京、東海、関西北陸、九州の6つの地域にある大学生協事業連合に加入する大学生協(190会員)で利用できるようにした。バーコードをかざしてスマホ決済ができるようになり、残高もその場で確認することができる。
神戸大学1年生のツイッターユーザー・mmfさんは、アプリの導入によって「食堂の待ち時間が今までの3倍以上になってる」と嘆いた。神戸大学では23年1月6日からアプリでの決済システムが導入された。
神戸大学生活協同組合の公式サイトでは、昨年12月末時点でICカードに残っていたチャージ・ポイント残高もアプリへ移行されると案内。1月13日までに8910人がアプリへの登録を行ったとしている。
mmfさんは取材に対し、アプリ導入日の6日に食堂に並ぶと長蛇の列ができており、後ろにも20人以上並んでいたと説明する。
「アプリを開くまでの時間、店員さんがレジ打ちに要する時間、バーコードの読み取りにかかる時間、機械からレシートが出てくるまでの時間などが全てICカードよりも長くなりました。このせいで味噌汁は冷め、うどんは伸び、ご飯はカピカピになり、ハンバーグのチーズソースは固まるという有様です」
一緒に並んでいた友人は学食を食べることを諦めたという。mmfさんは、アプリ導入前に用いられていたICカードと同じくらいスムーズな決済ができるよう改善してほしいと訴える。
京都大学でも22年10月から、「(アプリを)登録しないと電子マネー・ミールがご利用できません!」などとしてアプリへの移行が呼びかけられ、1月から決済システムが導入された。
2年生のツイッターユーザー・旅するマネージャーさんは取材に対し、次のような問題点を指摘する。
「アプリ自体の立ち上がりがそもそも遅いです。また、電子組合員証を提示するページがトップになっていますが、生協アプリを利用する場合にはまずもってプリペイド残高を使うことが多いことを考慮されていません」
支払い用のバーコードやチャージ用のバーコードが異なるため、各バーコードを表示させるのに時間を要しているという。これまではICカードをかざすと自動的に処理されていたそうだ。さらに各バーコードにたどり着くまでの操作も多いとしている。旅するマネージャーさんは「生協アプリの導入の経緯(必要性)についてより丁寧に説明してほしい」と訴える。
ほかにも、複数の大学でアプリ導入に伴う混雑が発生した、との報告がSNSに寄せられている。
アプリ導入に「コロナ禍」の影響
アプリの「Google Play」や「App Store」の平均評定は星5中1。レビュー欄には、ログインまでの手続きが煩雑だという声や、ソフトウエアの操作画面や操作性・UI(ユーザーインターフェイス)の改善を求める声が多く寄せられている。
取材に対し⼤学⽣協事業連合は、すでに50万人以上の人々がアプリへの登録を済ませているとし、「厳しいご意⾒も少なからずいただいておりますので、これらのご意⾒も真摯に受け⽌め、引き続き対応・改善を進めてまいります」と述べる。
アプリを導入したねらいについては、次のように説明する。
「従来から事業連合が提供していたシステムのサーバ等が耐⽤年限を迎えておりました。また、現⾏システムは導⼊当初から20年以上が経過しており、構成が古いゆえの種々の問題がありました。このような状況から、単に機器更新でシステムを継続して使⽤するのではなく、レジ・決済システムを含めたシステム全体を刷新することとしました」
今回のアプリ導入はシステム刷新の一環だという。レジシステムの更新とあわせて、決済方法を従来のICカードによるタッチ決済から、アプリによるバーコード決済を主体に変更した。
「従来の電⼦マネーの IC カード決済はカードの IC チップに残⾼を書き込む⽅式でしたが、この⽅式では店舗での対⾯決済が必須となります。コロナ禍で学⽣の登校機会が減少し、例えば新学期の教科書購⼊をオンライン決済し宅配するケースも増えてきており、今回はオンラインサーバー側で電⼦マネー残⾼を管理する⽅式への移⾏が必要と考えたことによります。なお、今回のシステム変更では従来の IC カードを使っての決済も進められるよう対応もしています」
一方で、先述した京都大学の旅するマネージャーさんは、「生協アプリに登録している場合には、学生証(ICカード)をかざすことによっても決済ができるようにはなっておりますが、このことについてはあまりにも周知されていません」と述べている。
ツイッターでは多くのユーザーが、ログインのための手続きが煩雑であると訴えている。エラーが出るという声も少なくない。こうした状況を⼤学⽣協事業連合は次のように受け止めている。
「アプリの初期導⼊の時点でアプリとこの組合員データベースを連携させる必要があり、初期導⼊時の本⼈認証を厳密に⾏っています。しかし結果として初期導⼊時にユーザー全体の約2パーセントの⽅にエラーが発⽣し、ご迷惑をおかけしていることについては弊会としても重く受け⽌めており、⽇々お問合せのあった皆様への対応を進めるとともに、アプリそのものの改善を続けているところです」
個⼈情報保護のための取り組みが裏目に
アプリでの決済は、多くの大学で1月上旬に導入された。ツイッターでは、「3月で卒業やのに生協アプリに移行させられるの怠すぎる」「せめて新入学シーズンの4月から導入してほしかった」などと苦言を呈するユーザーも少なくない。
リリース時期について⼤学⽣協事業連合は次のように説明する。
「学期である4⽉は店舗利⽤の最繁忙期にあたるため、システムやレジの更新、従業員の訓練等を事前に完了させる必要があり、また在校⽣の皆様には3⽉迄に利⽤⽅法に慣れていただけるようリリース時期を決定いたしました」
また通信状況の悪い立地にある店舗利用者やスマートフォンを持たない学生からは、ICカードを復活させてほしいという声もある。⼤学⽣協事業連合は、従来のシステムが耐用期限を迎えたことに伴う更新であるとして、旧システムに戻すことは考えていないとしている。一方で、ICカードも引き続き利用できる設計にはなっているという。
「オンライン決済や、保護者の皆様からのチャージをご利⽤可能にするためアプリへの切り替えをご案内していますが、スマートフォンをお持ちでない等の理由でアプリ決済ができない⽅についても従来の IC カードによる決済を可能とする設計を⾏っています」
食堂の混雑緩和に向けては、次のようなことに取り組むと説明した。
「アプリについてもレジ・決済システムについても順次改善に取り組んでいます。レジスピードの改善と合わせレジの増設・チャージ専⽤機の導⼊・増台を検討している⼤学⽣協もあります。⾷堂店舗は勿論のこと購買店舗も含めて利⽤していただける組合員の皆様を出来るだけお待たせしないよう、4⽉の最⼤繁忙期を迎える前に可能な限りの対応を進めてまいります」