繊細気質「HSP」ブームの光と影 「生きやすくなった」の一方で...専門家が指摘する弊害とは

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   人一倍感受性が強く、繊細な気質を持つ人を意味する「HSP(Highly Sensitive Person)」という言葉が、社会で広まりを見せている。

   テレビなどのマスメディアで取り上げられる機会が増え、人間関係や子育てなどHSP向けの本も登場。「HSP外来」を受け付けるメンタルクリニックも現れ、世間は「HSPブーム」の様相を呈している。

   HSPという言葉を知り、自身がHSPだと自覚した人の中には「生きやすくなった」と語る人がいる一方で、かえって苦悩を抱えるようになったという人もいる。心理学の専門家は「ラベリングによってむしろ自身の状態を見誤り、結果として『生きづらさ』が改善されない問題が生じてしまっている」ケースがあると説明。HSPブームによる問題点も生まれていると指摘する。

  • 「HSP」自覚した人の現実(画像はイメージ)
    「HSP」自覚した人の現実(画像はイメージ)
  • 「HSP」自覚した人の現実(画像はイメージ)

「玄関のカギを閉めたかな」不安で夜眠れず

「【あるある】僕がHSP彼女と5年同棲して気づいたこと。」
「HSP彼女と暮らす僕が大事にしてること。【モーニングルーティン】」
「HSP(超心配性)彼女のバッグの中身には大量の○○が入っていました。~彼氏のバッグは保険~」

   こんなタイトルの動画をYouTubeに投稿しているのは、登録者数約24万人の人気チャンネル「ともかほちゃんねる」だ。「平凡カップル」を掲げるカップルユーチューバー「ともかほ」のともやさん、かほさんの2人が、男女の共同生活で起こった出来事や「あるある」などを発信し、視聴者の共感を集めている。

カップルユーチューバーの「ともかほ」。ともやさん(右)の助言により、かほさん(左)がHSPという言葉を知り、自覚した(BitStar提供)
カップルユーチューバーの「ともかほ」。ともやさん(右)の助言により、かほさん(左)がHSPという言葉を知り、自覚した(BitStar提供)

   かほさんは、自身が人一倍繊細な気質「HSP」を持つことを自覚している。2022年12月20日、J-CASTニュースの取材に、自身の幼少期の体験についてこう話す。

「小学校のとき、1人の生徒に対してすごく怒る先生がいて、それを聞いていると私は全然怒られていないのに、その子に共感して涙ぐんじゃうということがありました。ただ、当時は『気にしちゃう性格なんだろうな』くらいに捉えていて、おかしいとは思っていませんでした」

   6年前からともやさんと交際し、一緒に暮らすようになった。浮き彫りになったのは、ともやさんとの考え方、感じ方の違いだ。

「夜寝る前に『玄関のカギを閉めたかな』とか『エアコンが頭に落ちてきたらどうしよう』とか、不安なことを考えてしまい、眠れない日々が続きました。社会人の頃は、会社の飲み会で他の誰かが厳しいことを言われているのを聞いて悲しくなり、家に帰ってともやに号泣しながら話してしまうこともありました」

「気にしすぎ」への理解で減ったケンカ

   ともやさんは「そんなこと気にしないで大丈夫だよ」とかほさんに声をかけていたものの、「あまり気にしすぎられちゃうと自分の気分も落ち込んで、悪い雰囲気になって、最終的にケンカになってしまうことが多々ありました」と振り返る。

   そうした中、2年ほど前にともやさんがSNSでHSPの特徴を取り上げた投稿を発見し、かほさんに教えた。「見れば見るほど自分に当てはまる」と感じたかほさんは、「すごくスッキリして、同じような気質の人がいっぱいいるんだなと感じました」と振り返る。その後、HSPに関する本を手に取り、日常の中で出来る「対策」をするようになったという。

「朝に暗いニュースを見ると、共感して一日中落ち込んでしまうので、見ないようにしました。また、家に日用品をストックしすぎてしまっていたので、Amazonの定期便を頼むようにしました。色々なことをいっぺんに考えると頭がショートするので、『やることリスト』を手書きで書くようにして、自分の頭を整理するようになりました。ともやと一緒に散歩やキャンプに出掛けたりして、『何も考えなくていい時間』を意識的に取るようにしました」

   かほさんがHSPだと自覚したことで、接するともやさんの意識にも変化があった。

「『なんでこんなに気にするんだろう』と考えていたものが、かほは『そういう気質』だからと理解するようになり、気持ちが楽になりました。ケンカの数も減り、より仲良くなっている感じがします」

専門家「2020年から『HSPブーム』加速」

   「HSP」という言葉が一般的に知られるようになったのは、ここ最近のことだ。

   J-CASTニュースが国立国会図書館の蔵書検索サービス「NDL ONLINE」で調べると、タイトル名や目次などに「HSP」を含む本の数は、17年から22年までの6年間で約8倍に増加。中でも18年に出版された「HSP専門カウンセラー」の武田友紀氏による『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(飛鳥新社)は、累計60万部を超えるベストセラーになった。他にも、人間関係や子育て、漢方、貯金、ダイエットなど様々なテーマを題材にしたHSP向けの書籍が出版されている。

「HSP関連本」の出版数推移(J-CASTニュース作成)
「HSP関連本」の出版数推移(J-CASTニュース作成)

   また、HSPの子供を指す「HSC(Highly Sensitive Child)」や、内向的だが刺激を求める「HSS(High Sensation Seeking)型HSP」といったHSPを細分化した言葉のほか、社交的だが刺激を求めない「HSE(Highly Sensitive Extrovert)」、社交的で刺激を求める「HSS型HSE」など、HSPと隣り合う概念も広まりを見せている。お笑いコンビ・ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんは、自身が「HSS型HSP」だと公表している。

   メンタルクリニックの中には、HSP患者に検査による診断を行い、自己肯定感を高めるカウンセリングを行う「HSP外来」を開く医院もある。

   心理学者で『HSPの心理学』(金子書房、22年11月30日発売)、『HSPブームの功罪を問う』(岩波ブックレット、23年1月13日発売)などの著書で知られる創価大学教育学部専任講師の飯村周平氏は22年12月16日の取材に、テレビなどが特集を行ったことをきっかけに、2020年に「HSPブーム」が加速したと考えられると分析する。

身近にHSPおらず...「傷つくことはかなりある」

   先述したYouTuberのかほさんは「HSPという言葉を知ってから、生きやすくなったと思っています。今までは考えすぎていたところがありましたが、対策で始めた散歩やキャンプなど、新しい趣味もできて楽しいことが増えました」と話す。

   飯村氏は「いくつかの論文によると、当事者の語りの中には、HSPを自覚することで、自己理解が進んだり、日常生活を工夫するようになったりするなど、ラベリングによる肯定的な変化(メリット)を感じている人が割合として多いようです」とする。

   一方で、「HSP」という言葉を知ってから、かえって苦悩を抱く人もいる。

   22年12月23日、J-CASTニュースの取材に応じた20代のAさんは、1年前から「外で写真を撮る際、友達は普通に目を開けられているのに私は眩しすぎて目を開けられないことが多く疑問に思っていました」「考えすぎと言われることが多くなり、他人の何倍も考えすぎてしまって私っておかしいのかなって思い始めました」などと、周囲との違いを感じるようになったと振り返る。

   TikTokを見ていたとき、たまたま「HSPあるある」の投稿が目に入ってきた。HSPにありがちだとする特徴を取り上げたもので、「それが全部当てはまって、他にも調べてみたら私が悩んでいたこと全て書いてありこれだ!って思いました」。そこで自身がHSPだと自覚したAさんだったが、かえって「人の目を気にしたり、考えすぎてしまったり、泣くことが多くなった」と話す。特に悩んでいるのは、周囲との人間関係だ。

「(HSPという言葉を知ってから)他にもHSPの人がたくさんいるんだって思えるので、気持ちは楽になりました。ですが、身近にHSPの人はいません。なので、理解されないことが多く、『考えすぎ』の一言で片付けられたり、傷つくことはかなりありますが、隠しています」

   Aさんは「HSPは病気ではないので、知ってる方が少ないと思います。もっと(世間で)知られれば、HSPの自覚がある人が過ごしやすい世の中になると思います」と話す。

「ラベリング」で生じる問題も

   飯村氏は「HSPは操作的診断基準(編注:発達障害などの診断時に用いられる、基準を設けて診断する方法)がない心理学ラベルであり、医師を含む第三者が診断や治療する概念とはなっていない」とする。そして、HSPブームによって「問題視される側面」も発生したと指摘する。

   具体的には「一部の精神科クリニックによる科学的根拠のないHSP診断・検査・治療ビジネス」「専門性の疑わしいHSP専門カウンセラーの乱立」「HSPを悪用するカルト団体やマルチ商法の参入」「子どもの支援を名目としたHSCラベルの濫用」「HSP自身に向けられる、あるいはHSPが他人に向ける偏見や誤解」「学術的根拠にもとづかないHSP情報の発信とそれに伴う誤解の拡大」「学術的根拠のチェックが甘いマスメディア(専門性の疑わしい人物の登用)」といったものだ。

   また、自身がHSPだと自覚したり、他者をHSPだと認識したりする「ラベリング」によって発生する問題もあると指摘する。

「例えば、発達障害の疑いの強いお子さんをもつ保護者が『自身の子どもはHSC(気質)だから支援は必要ない』と主張されるケースがあり、本来必要な支援から遠ざかってしまうことが報告されています。現状として、『生きづらさ』を抱える人がHSPを自認することが多いようですが、ラベリングによってむしろ自身の状態を見誤り、結果として『生きづらさ』が改善されない問題が生じてしまっています」

   飯村氏はHSPとラベリングすることを「ゴールではなくスタートにしてほしいと思います」とし、HSPを自覚する人や、HSP自覚者と接する周囲の人にこう呼びかける。

「身近にHSPを自認する人がいたとしても、腫れ物に触るような接し方をする必要はないと思います。『生きづらさ』を抱える人がHSPを自認するケースが多いようですので、大切な人であるならば、彼ら・彼女らの『生きづらさ』に耳を傾けることが人間関係としても重要なのではないではないでしょうか。『生きづらさ』が日常生活に支障をきたしているのであれば、できるだけそのままにせず、専門家に相談することが大切です」
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