岸田文雄首相は年頭の記者会見で「異次元の少子化対策に挑戦する」と述べた。
そもそも少子化対策について、天の邪鬼な筆者はその必要性がストンとこない。人口減少しても、一人あたりGDPで見る限り、必ずしも低下するとは言い難い。世界中で人口減少している国は30ヶ国程度あるが、一人あたりGDPが成長している国も少なくない。端的にいえば、人口減少しても電子化やロボット化でかなりの程度補えると思う。
なんでもありの世界
これまでの人口論も、有名なマルサスのものをはじめとして人口増加は等比級数だが食料生産は等差級数なので人口増加には対応しにくいと言った議論ばかりだ。一方、人口減少に対しては人への機械装備率を高めれば対応できるとの議論があった。筆者は後者の代表例だ。
何しろ人口動向の根本要因が分からないが、金銭要因による人口増誘導について、政治家のみならず在野の方から夥しい政策提言がある。少子化対策ほど、客観的なエビデンス・ベースト・ポリシーからほど遠い分野もなく、なんでもありの世界だ。
人口動向は人の生物としての本能的な営みが大きく関係するのは自明だが、それを金銭要因でどこまで誘導できるかについて、実証分析なしにもかかわらずだ。逆にいえば、基本的なメカニズムが分からないので、人口問題は政治課題なのだろう。とにかく、人口問題は国民に人気があり、政治家には人口問題に関心を持つ人が多い。
財務省の思惑
財務省から見れば、政治課題なので無視することはできない。しかし、どうせ政治要求が来るのであれば、それを逆手にとることを考えているはずだ。
そこで、少子化増税だ。人口を増やすために増税とはちょっと意表をついているが、少子化対策には安定財源をという例のフレーズだ。その財務省の思惑をつい口にしたのが、甘利明前幹事長だった。本人は、趣旨は違うのに一部を切り取られたと弁明しているが、いかにも脇が甘かった。財務省にとっても、本音が漏れたので焦っただろう。
財務省の戦略は、少子化対策について多くの政治家から語ってもらう、ただし財源論抜きでは語らせないというものだ。そして、最終的な取りまとめ段階になったら、政治家のいう少子化対策にはエビデンスがないと理由をいい、大幅に換骨奪胎するが、安定財源論だけはしっかり残して少子化増税に持っていくのだろう。少子化対策は広い意味での社会保障になるので、社会保障財源である消費税増税にもっていくのが目に浮かぶ。これはあってはならない。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。