AKB48メンバーらの写真などのグッズが大量に破られて、家の床一面に散乱している――こんな写真がツイッターに投稿され、ファンらの間で衝撃が走った。
投稿したのは、その界隈では有名な「けいすけ」さん(38)だった。AKBとともに14年間過ごし、グッズなどに約2000万円を注ぎ込んできたというが、一体どんな心境変化があったというのか。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 野口博之)
写真などを買った自分に戻るのが怖くなり、2、3時間かけて破いた
「俺の人生を取り戻した スキャンダルから色々考えた 14年間楽しかったです」
「さようなら、たくさんの思い出よ」
けいすけさんは2022年11月20日、ツイッターでこうAKBファンなどに別れを告げ、写真を投稿した。破いたときの動画も、後に載せている。
AKB48を巡っては、センターにも抜擢された中心メンバー岡田奈々さん(25)の熱愛が前日に週刊誌で報じられ、グループの「恋愛禁止」に触れるのではないかと騒動になっていた。それも親公認で新居を決めようとしたとされただけに、裏切りと映ったファンも少なくなかったようだ。
こうした状況ともあって、けいすけさんの投稿には、ファンから共感の声なども続々と寄せられた。その一方、AKBメンバーらの目に触れてショックを与えるのではと複雑な気持ちを明かす人もおり、ファンらの間で波紋が広がっている。
――一体どんな心境変化があって投稿したのか、けいすけさんと2022年11月29日に東京都内で会い、その事情について詳しく話を聞いた。けいすけさんは、シャイな感じもあったが、インタビュー時は、都内の会社で人事関係の要職をしており、聡明な受け答えぶりが印象的だった。
けいすけ:岡田さんのことは最初、単にショックだなという思いがあっただけだったんですが、その日お休みだったこともあって、自宅の周りを散歩しながら、色んなことを考えちゃったんですよね。あれ?岡田奈々ちゃんって、恋愛よりもAKBの活動だけに捧げてる人じゃなかったのかなとか。でも、アイドルとはいえ1人の女の子だから恋愛ぐらいするよな、当たり前だよな、という思いもあったし...。AKBに入って10年近く恋愛をするなっていうのもおかしな話だよなという思いと同時に、単純に嫉妬みたいなのもあって。アイドルと自分って別に交わるものでもないし、そもそも自分はなんでAKBとかアイドル自体を夢中になって追いかけ、自分の時間もお金もずっと費やして、何をやっているんだろうって。考え始めたら、分かんなくなってしまったんですよ。
結局、30分ぐらいで終わる散歩が、4時間ぐらい経っていました。家に帰ったら、自分の部屋に大量にグッズがあるわけで、何でこんなにたくさんあるのだろうとびっくりしちゃって。そのことに恐怖心が出てきて、今すぐアイドルファンっていう存在から脱しないとヤバいんじゃないかと思い始めました。その瞬間、衝動的にファンクラブなどの関連サービスから全部退会したんですよ。
ここにある全部のグッズをそのままにして夜寝ちゃうと、翌日の朝起きたときに夢中で買ってた自分に戻ってるかもと思ったら、それも怖くなって。じゃあ、もうこれ壊すしかないなと、ワーっと2、3時間ぐらいやってました。ツイッターに写真などを投稿すれば、本人とかグループの女の子たちに届いているかもしれないですが、これをやってる自分をちゃんと残しておかないとアイドルファンに戻ってるかもしれないという焦りや恐怖心から、身勝手な話ですが、自分の中で儀式として記録に残しました。
スキャンダルを敢えてネタにするなど、女の子が魅力的だった
けいすけさんは、10代ぐらいのころは、友達から「モーニング娘。」の話題を振られても冷淡で、アイドルには無関心だった。海外サッカーを観戦するのが好きだといい、大学時代は、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のスレッドに書き込んでは、議論を戦わせていた。
あるとき、ねらーの1人がAKB48メンバーの名前をハンドルネームに変更したことから、AKBにも興味を持ってそのスレにも書き込むようになる。大学4年生だった2007年当時は、AKBがブレークする前だったが、「会いに行けるアイドル」に惹かれ、東京・秋葉原のAKB48劇場にも足を運ぶようになった。
けいすけ:やっぱり面白かったからですね。実際に会って握手したりして、女の子が魅力的だったのと、色々なスキャンダルを敢えてネタにするところもありましたし。秋元康ビジネスについては、けっこう2ちゃん的な炎上系のネタにしやすいんですよ。柏木由紀ちゃんらが当時はお気に入りでしたが、特定の女の子に入れ込むというよりは、グループが好きな『箱推し』でしたね。
けいすけさんは、大学院に入っても活動を続け、AKBは、2008年ごろから「大声ダイヤモンド」などの大ヒット曲を連発してブレークした。
けいすけ:うれしかったですね。最初はマイナーなグループで、自分が夢中になって応援しているだけでなくて、何とかこの子たちがスターになったらいいなという目線で追ってましたから。日本中誰でも知ってるグループになり、一歩引いて、グループが成り上がっていくのを見て楽しかったですね。当時、自分のものとは思ってもいなかったのかもしれません。グループも色んな施策を打っているんですが、じゃあ、もっと流行るために何をしたらいいかと考えて応援していました。2009年からのAKB48選抜総選挙も、とっても頑張りましたね。
けいすけさんが一番思い出すのは、09年1月に行われた「AKBリクエストアワー セットリストベスト100」という歌の総選挙で投票した結果、推していたチームBが歌った曲「初日」が1位になったことだという。単にその曲が好きというより、「柏木由紀ちゃんが喜ぶから1位にさせよう」のような形の総選挙になっていて、そのときにCDを100枚ぐらい買ったと明かした。
「先輩たちには負けたくないよ」。チームBが歌った「初日」は、ステージ初日の意気込みをこんな歌詞に盛り込んでおり、ファンらにチームAなどへの対抗心を意識してもらおうという意図もうかがえるようだ。
けいすけ:当時は学生のため、そんなにお金がなかったので、一般的なファンよりも多くはなかったんですが、1枚1600円なので、100枚で16万円ですか。家庭教師や大学の授業のチューターもしていましたし、コンビニ店員など色んなアルバイトもしましたね。当時のチームBには、柏木由紀ちゃんとか渡辺麻友ちゃんとかがいたんですけど、まだまだできたてで、何か2軍扱いだったんですよね。チームAやKだと、前田敦子ちゃんとか大島優子ちゃんとかがいて、メジャーなテレビとかいっぱい出てたグループでした。チームBはまだ、テレビなんか全然出ていないし、選抜の後ろの方にいる子たちで、それを総選挙で初めて逆転できたっていう劇的なものがあって、そこで一番お金も情熱も費やして1位になったのが思い出ですね。
「けいすけさんのおかげです。一生忘れないです」と言われ
けいすけ:握手会のときに柏木由紀ちゃんに会うと、「やっぱりうれしいでーす。初日、1位になったね」「けいすけさんのおかげです。一生忘れないです。これからもよろしく」と言われました。絶対みんなに言ってますけど。当時は、CDを1枚買って5秒で、100枚ですから、ループといって何周もするんですけど、10分ぐらいは話していたかな。僕は、あまり突っ込んだ話はせずに、自分のプライベートを一方的に聞いてもらうのが好きだったので、「大学院って研究が...」とか近況報告をたくさんしていました。聞いてくれて、また返しがうまいんですよね。例えば、柏木由紀ちゃんの配信を見ながら、「明日大学院入試なんだよね。どうしよう。緊張するよ、由紀」みたいなことを書き込むと、柏木ちゃんが配信中にたまたま見て、「私も頑張るから、あなたも頑張って。勇気出して、頑張ってね」みたいなことを言われる。そして、次の握手会で入試に受かったことを報告しに行く。ファンのことを覚えていなくても、うまくその場で覚えてるふりをして、上手でしたね。
けいすけさんは、2011年4月に現在とは別のコンサルティングファームへ大学院を修了して就職した。働いて寝るだけのような多忙な日々が続き、趣味どころではなくなる。AKBをネタにした炎上ニュースが好きだったが、それらの話題に追いつけなくなって、3、4年はAKBから離れたという。
AKB48の全盛時代がまだ続いた後、2012年に絶対的エースだった前田敦子さんが卒業し、翌13年には、大島優子さん、板野友美さん、篠田麻里子さんといった主力が次々に卒業していった。「恋するフォーチュンクッキー」といった大ヒット曲を最後に、人気に陰りが出始めていく。
けいすけ:そのときは、ちょっと距離を置いて見てましたね。敦ちゃんが卒業する年は、けっこう敦ちゃんの人気は落ちてきていて、優子ちゃんの方が人気あったし、優子ちゃんが卒業するときは、さっしー(指原莉乃さん)が出て来ていました。新しい子たちがたくさんいたので、AKB自体がそれで打撃みたいな感覚はまったくなかったです。年1、2回は、クリスマス前後などにライブは行っていました。昔の曲とかやってくれたり、たまに卒業したメンバーがサプライズで出てきたりするので、その子たちの姿を見るのをすごく喜んでいました。仕事がきつかったので、1年間僕は生き残った、みたいなことをしんみりと感じていました。
けいすけさんは、仕事に余裕がでてきた4、5年目からは、少しずつAKBなどの情報を追うようになる。そして、2019年1月にNGT48山口真帆さんがファンから暴行されたと動画配信で告白した問題が大騒ぎになり、けいすけさんは配信翌日に、2ちゃんのスレを読んでびっくりした。炎上好きのため、これはどうなるんだろう、と段々とのめり込むようになったという。
けいすけ:確かに、マナーの悪いファンはいるんですけど、お前そこまでやるか、さすがに犯罪だろと、その人たちに一線を引く見識があってしかるべきだと思いました。メンバーも、友達的に通わせちゃったりしたことが多かったみたいなんですよね。そこは、分かんなくはないなとは思いますけど、ちょっと残念だなって。要は、当たり前のアイドルとファンの境界線が崩れて、メンバー側もちょっとなあなあになっていたのかなという感想です。
それから、AKBグループへの関心を再び取り戻し、ライブ参加を手始めに活動を再開していった。
けいすけ:戻ってきたら自分は30代でしたし、その子たちって15、16だったので、恋愛的に見るというよりは、どうやったら世の中的に流行らせるか、そのために自分ができることは何か、みたいな視点で見ていました。そう思って見ているファンは、けっこうたくさんいて、その1人ですね。時間もお金もあったので、またメンバーも全部覚えちゃいました。それで、めっちゃ久々に現場復帰して、コンサートや握手会も行くようになりました。全盛期の現場よりも、いる人数も2ちゃんスレの勢いも、めっちゃ落ちていて、寂しいなとは思っていました。それを盛り上げるべく、ツイッター活動を始めたりしました。
ほどほどの応援ならいい、人生を見失わないで
そんな中で、今回の岡田奈々さんの熱愛報道が大きな話題を集めた。
けいすけ:岡田奈々さんって、AKBで一番か二番に人気があるメンバーで、僕の好きなSTU48を創設したメンバーなんですよ。STU 1期生のオーディションも、岡田奈々さんが秋元康さんの隣に座って、実は面接官やっているんです。秋元さんが瀬戸内観光の公的な機関とビジネス的なコラボをやって、そのうちに観光誘致するためのアイドルグループを作ろうって、瀬戸内の女の子たちをSTUに採用しました。ただ、核になれる子は必要だから、立ち上げたときから、AKBのエース格だった岡田奈々さんをSTUと兼任させたんですね。個人的に岡田さんをすごく好きだったわけではないんですが、身近な存在だし、AKBグループの旗頭だったにもかかわらず、裏側では、そんなに頑張っているわけではなかったのかなって。乃木坂46などの坂道グループとか韓国のK-POPグループとかを抜くぐらいもう1回AKBを盛り上げていく、ということに全力なわけじゃないんだなと。彼氏と付き合っているというよりは、新居を2人で探して一緒に住む、それで親にも紹介済み、と知って、残念だなとの思いがあったのが一番最初の感想です。そこから、延々と考え始めたんですね。
彼女に怒っているというのは、一切ないんですね。岡田さんというのはきっかけで、アイドルはオタクの疑似彼女だとどこかで思い込みながら、自分のプライベートを全部費やして追ってる自分から、怖くなって出ていくことにしたんです。僕の周りでは、友達とかも結婚していくし、家庭があったり趣味があったりします。僕は、仕事は普通にやっているんですけど、家帰ってプライベートになると、アイドルとサッカーとか自宅の園芸ぐらいで、ほぼほぼアイドルファンですね。何も積み上げて来てないな、っていうことに当然気づきますよね。本当にそれでいいのかなっていう思いは、あんまり認めなかったんですけど、あったかもしれません。
4時間歩いているときに、断片的に2ちゃんに思ったこと3行ぐらいで書いては投稿し、書いては投稿し、っていうのをやってたんですよ。最初は、奈々ちゃんの好きにしたらええわ、別におめでとう、と書き込むぐらいで、わりと冷静だったんです。それが、散歩していて空しくなり、AKBのグッズ売ろうかな、ファンのつもりだったが正直どうでもいい、と書くようになった。これまで思い込んでいたことを破られたってことは、ショックだったんです。ファンの勝手な妄想だと頭では分かりつつも、その現実に気づいた瞬間、じゃあなんで自分はこんなアイドルファンを14年間も全力でやっているんだろうと、すごく嫌悪感がありました。自分で、アイドルファンである自分を拒絶するみたいで、すごく矛盾しますが。
14年間を振り返って、けいすけさんにとって、アイドルとはどういうものだったのだろうか。
けいすけ:やっぱり楽しかったし、それで僕が頑張れた思い出とかもたくさんあるし、別に今も岡田さん含めて嫌いかというと、まったくそんなことはなくて、大好きです。その一方で、旅行費なども含めて14年間でグッズに2000万円ぐらいは注ぎ込み、こんな活動をずっとやっていた自分というのは何なのかと考えました。結婚も恋愛もせずに、特に建設的な趣味が他にあるわけでもありません。秋元康的な立場でもないのに、1ファンにできることなんか限られているのに、彼女らを成り上がらせるために必死に考えている自分は何やってんだろうな、とすごく感じました。わりと誘惑に流されちゃう人間なので、このままだとまた寝て起きたら、自分を見失っている自分にいつ戻るか分からないと思って、今回のツイートのようなことをしたということです。
僕は、もっと生産的にやりたいこともプライベートでたくさんあるし、挑戦したいことも仕事でたくさんあるんで、こんなことやっている暇はないんですよ。活動に時間を割いている場合じゃないなというのがあって、アイドルファンに戻りたくないですね。戻らないと思います。ファンの人たちには、「人生を見失わないようにして下さい」と言いたいですね。ほどほどに応援したりすると、それはやっぱり楽しいものです。アイドルファンってコミュニケーションを取れない変な人たちだ、などと酷いレッテルを与えられていますが、僕は、そうではないと思っていて、アイドルとファンの世間の中での立ち位置が上がるといいなという思いはあります。