店内の包丁を全てチェーンでつないでいる寿司屋があると、SNSで大きな注目が集まった。
話題になったのは、「又こい家(またこいや)」羽田第一ターミナル店。保安検査を通過した制限エリアに店があるため、安全対策の関係上、刃物はチェーンでつなぎ、持ち出せないようにしておく必要があるという。
J-CASTニュースは、「又こい家」を運営する恵フード(東京都中央区)の本宮義雄さんに、空港内の寿司屋ならではの取り組みについて取材した。
チェーン付きの包丁は扱いづらい?
「羽田の制限エリアにあるお寿司屋さん、すべての包丁がチェーンで繋がれていて、かつ刃渡り15cmくらいしかない果物ナイフしか使えないようで大変そうだった」――。
ツイッターで2022年11月5日、あるユーザーが又こい家についてこう紹介した。店員から話を聞いたのか、「抜き打ちで包丁が規定通り管理されているか検査が入るらしい」というエピソードも添えている。
取材に対し、本宮さんはこれらの投稿内容は事実だと認める。同店では、寿司を握るとき、刺身やおつまみを作るとき、巻物を用意するときなどに包丁を使うが、全てチェーンで繋がっているという。
「店舗ではネタを切り出す『切り付け』を行っています。羽田第一ターミナル店は他店と比べ、忙しく、作業スペースも広くはありません。魚を丸々調理するわけではなく、ほとんどは豊洲の加工場で調理しています。しかし皮は取ったところから鮮度と色が落ちるので、店舗で取っています」
カウンターの近くでは巻物を切るなどちょっとした調理用の小さめな包丁、奥には仕込み用の大きめの包丁を用意している。しかし、どちらも安全対策の関係上サイズに制限があり、寿司屋が用いる包丁としてはかなり小さいそうだ。
チェーンのついた包丁の使用感については、「慣れてしまえば何の苦もない」という。
「ヒアリングを行うと自分の包丁を使いたいという声が多いですね。寿司職人は、何十年も続けていれば自分の手になじんだ包丁を持っています。しかし空港で使うには、柄の部分に穴をあけてチェーンで結ばなければなりませんので、持ち込む人はいません。空港の包丁は共用で用いているので、刃を研ぐ頻度は高いです」
空港ならではの営業形態
包丁やハサミなどの刃物については、数やチェーンの状態など抜き打ちで検査があるという。さらには衛生面や消防設備についても、一般的な飲食店よりも厳しくチェックがあるそうだ。従業員は、出勤のたびに保安検査を受けている。
このような厳しい制約がある中で、なぜ出店したのか。本宮さんは「空港という主要な交通機関内に店を構えることで多くの客が訪れること期待した」と話す。
「確かに普通の会社が出店するには厳しいかもしれませんが、こんなに良い立地はありません。駅もありますし、必ず人がいます」
2011年9月に羽田空港で初めての寿司屋としてオープンした。親会社が築地市場でマグロを専門に卸売業を営んでいるため、マグロの味には自信があるという。営業時間は、飛行機の発着に合わせ朝6時半から夜の8時まで。店舗の目の前は搭乗口なので、客足は飛行機の大きさや発着スケジュールに左右される。
「客層は新規のお客様よりも常連客が多いです。ほかの店では調理する人と対面でお話しすることはできないと思いますが、又こい家ではカウンターでのコミュニケーションを大事にしています。好みのネタやドリンクを覚え、お客様に合わせてご提供しています。
『月に一回、出張で来るのを楽しみにしている』とお話しされるお客様もいらっしゃいます。搭乗時刻ぎりぎりで名前が呼ばれるまで飲んでいる方もいました」
2020年に新型コロナウイルス感染症が拡大すると、飛行機の発着本数が減少し、客も減った。それでも出張で飛行機をよく利用する常連客が訪れていたという。国際線が中心の第二ターミナルにオープンした店舗はすぐに閉店してしまったそうだ。
「コロナ禍では常連客の方が多かったですが、先月半ばからは旅行割が始まった影響で新規のお客様が増えました。平日から列ができることもあります」