「実用性」と「かわいさ」で迷う
八木さんは、食パン座椅子に対するSNSでの反響を受けて、社内の売り方や商品開発に対する考え方に大きな変化が生じたと振り返る。
「驚くというよりも、『こういうことやっても良かったんだ!』と社内の固くなっていた考え方がほぐされる感覚がありました。こだわりの強い職人たちの間で、新たな挑戦に対する心の抵抗が薄れていき、家具屋として良質なものを提供するだけではなく、SNSを通して人々の求めているものが何なのか考えるようになりました」
食パンソファベッドの開発では、その実用性とかわいさのバランスに悩んだという。ソファらしく背をかけやすくするならば、背もたれを大きくしたほうが良い。しかし可愛らしい食パンのシルエットを保ったまま、全体を大きくすると置く場所がなくなってしまう。背もたれだけ大きくすると「しめじ」のような形になり、食パンらしさから遠ざかる。
「背中部分を大きくしないと不便で売れないのではないかという心配もありましたが、SNSでは『かわいらしい食パン』を求めてくださる声が広がっていました。そうした声を受け、背中部分は小さめになりました」
また一般的な食パンは真四角に焼かれているが、同社の食パンシリーズは「かわいさ」を追求し、あえて山形の食パンを模したという。社内では、この山形の曲線の角度をめぐって激論を繰り広げることもあったそうだ。
さらにヒカキンさんが「めちゃめちゃいい材質」と評していたように、家具屋としてのこだわりもある。食パンソファベッドには、安価の家具では用いられないモールド製法を採用しているという。
「「耐久性に優れ型崩れしにくいモールド製法は、一般的にコストがかさばります。弊社はモノづくりの方針として、高い技術を安く提供したいと考えており、実は車両関係やベット関係の工場から出るウレタン系材料の切れ端を再利用しています。車両のウレタンの発砲技術は優れており、実はこの品質のものを海外で作ろうとすると、日本よりも粗悪で高くつきます。また、本来ならば産業廃棄物になるものをリサイクルしているので、SDGsの先取りかもしれません」