職人の「おふざけ」が予想外の反響を生んだ
八木さんは2022年11月24日、駐在先のベトナムからテレビ電話で取材に応じた。食パンソファベッドは「食パンシリーズ」というカテゴリから生まれたものだと説明する。
食パンシリーズを開発したきっかけは、前任者の「なんとなく可愛いものを作ってみたい」という出来心だったと振り返る。例えば、商品の流通のためにも重要な品番にも遊び心が加えられているという。同社ではほとんどの品番がAから始まるのにもかかわらず、食パンシリーズは開発当初からパンを推測できる「PN」となっている。
シリーズ最初の商品は2013年に発売された「食パン座椅子」。併せて食パンソファベッドの構想もあったそうだが、社内では「売れないだろう」と考えられており、開発には至らなかったという。八木さんによれば、当時の社員は職人気質で、モノづくりに強い誇りを持つ一方で、食パンと家具を掛け合わせるような独創的な商品を作ることにはどこか抵抗があり、消費者にも受け入れられるとは思っていなかった。
食パンソファベッドは、食パン座椅子がSNSを通じてヒットしたことをきっかけに開発が進められることになる。
社内で期待されてこなかった「食パン座椅子」に、最初に目を付けたのはニトリのEC担当者。ニトリでの取り扱いが始まると、ブログやSNSで商品の口コミを書き込まれるようになる。
前任者はこのころ、採用活動のためにツイッターアカウントを運用し始め、こうした口コミを見かけるようになる。ただ当時、SNSにはどこかアングラな意見を交換する場という印象もあったそうで、社内ではインターネット上の露出が商品の販売につながるとは考えていなかった。
しかしある購入者とのやり取りが拡散されたことが、同社にとって大きな転機になった。
「ある購入者様の軒先にツバメの巣ができたようで、一度巣からひなが落ちてしまったことがあったそうです。その方がまたヒナが落ちてしまった時の衝撃を和らげるために、巣の下に弊社の食パン座椅子を置いたそうです。このツイートを見た前任者は『こういった使い方をしてくれるのはうれしい』と考え、軒先に置いて汚れてしまった商品の代わりに新品をお送りしました。このやりとりが拡散され、弊社の商品やSNSがポジティブに注目してもらえるようになりました」
SNSで温かいエピソードが拡散され、その後の同社の対応も評価されたことによって、同社のファンが増え商品にも注目が集まった。食パン座椅子が「かわいい」と話題になると、売り上げにもつながった。これを機に、お蔵入りしていた食パンソファベッドの企画も再始動することになる。