ディスカウントストアのドン・キホーテ(ドンキ)が2022年12月中旬に公式キャラクターを「ドンペン」から「ド情ちゃん」に変更すると発表したが、SNS上では交代を惜しむ声が相次いだことを受け、同社がこれを即日撤回するという騒動があった。
「かわいそう」「好きだったのに」――。赤いナイトキャップを被ったペンギンの「ドンペン」にはそんな声が寄せられたが、ドンペンの続投が決まると、SNS上には安堵する声があふれた。また、一部からは炎上商法なのではないかと疑う声も上がった。
『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)の著者である谷頭和希さんは、今回の騒動によって「ドンペン自体が愛されるキャラクターであることが逆に証明された」と振り返る。なぜドンペンは愛されるのか。ドンキが公式キャラクターの変更を狙ったのはなぜか。谷頭さんに詳しい話を聞いた。
「変更なくて良かった」「ホッとしました」
騒動の発端は、ドンキ公式ツイッターが2022年12月16日昼、「この度ドンキ公式キャラクターを『ドンペン』から『ド情ちゃん』に交代する事が決定いたしました」と発表したことだった。同社のオリジナルブランド「情熱価格」を周知するために、「ド」の文字をモチーフにした新キャラクターに変えると報告した。
この発表はSNS上で衝撃をもって受け止められ、ツイッターでは同日のトレンドに「ドンペン」が1位に入るなど大きな話題に。また、「かわいそう」「好きだったのに」と交代を惜しむ声が殺到した。
こうした反響を受け、同社は同日夜、「お客様から大変多くのご意見を頂き、私たちが考えている以上にお客様の『ドンペン』への想いを再確認することができました」とツイッターに投稿。ドンペンの続投を発表し、今回の騒動について謝罪した。
「変更なくて良かった」「ホッとしました」――。そんな安堵の声が寄せられる中、一部からは「何がしたかったんだ...?」「本当に変更するつもりだったの?」と疑問を呈する声も上がった。
ドンキを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)も16日、「ドン・キホーテ新キャラクター『ド情ちゃん!』登場」と公式サイトで発表している。なお、この発表内でドンペンに関する記述はない。
ドンペンが愛される3つの理由
チェーンストア研究家の谷頭さんは、今回の騒動について「最大瞬間風速的に盛り上がったと思えば、次の日にはほとんど忘れられているような騒動だった」とし、ドンペン自体が愛されるキャラクターであると証明されたと振り返った。
では、なぜドンペンは愛されるのか。谷頭さんは、(1)ドンペンが生まれた経緯(2)全国各地における自由な使われ方(3)偏った人々に愛される側面――の3点を指摘した。
ドンペンは、とある店舗の従業員が作ったオリジナルキャラクターとして生まれて全社的に広がった経緯があるという。谷頭さんは「企業が押し付けて生まれたのではなく、人々に根付いた形で生まれたキャラクターなので、愛されているのかなと思います」と話す。
日本各地の店舗で、その地域の偉人や名所に扮して展開されたり、ブランド品を身に着けたり、ダイエットコーナーではスリムな姿になったりするなど、ドンペンは自由な使われ方をしている。この「キュートな雰囲気」が愛されているのではないかと、谷頭さんは見解を示した。
さらに、東京・歌舞伎町の一角「トー横」に集まるコミュニティ「トー横キッズ」が、ドンペンをブランドアイコンのように使い始めたことが、ドンペンが人気になったきっかけの1つにあるという。
トー横キッズがドンペングッズを身に着けることで、新宿のドンキが大がかりなドンペンコーナーを展開し、こうしたグッズを積極的に売り込む動きが全社的に広がっていった経緯があると述べた上で、谷頭さんは次のように説明した。
「ドンペン自体に、ある種のアウトローな結びつきが結構強くあり、『病み系カルチャー』や『ぴえん系』のようなものとの結びつきもとても強いという感じがあります」
キャラ変更によるドンキのメリットとは
なぜ、ドンキは公式キャラクターをド情ちゃんに変更しようとしたのだろうか。谷頭さんは、公式キャラクターを変更することで「ドンキにとってある程度のメリットもあるなと思った」と理解を示し、次のように説明した。
「1990年代や2000年代のドンキには『ヤンキーの御用達』みたいなイメージがありましたが、2000年代後半から生鮮食品や野菜を扱うスーパーマーケットのようなドンキも登場して、『ヤンキーやDQNや若者が行くいかがわしいお店』から『色んな年齢層が使うスーパーマーケット』という形へと移り変わり、顧客のパイを増やしていきました」
ドンキが「色んな年齢層が使うスーパーマーケット」に方針転換したい中で、公式キャラクターであるドンペンが「トー横キッズ」のようなアウトロー系や「ぴえん系」「病み系カルチャー」と結びついていく。
こうした状況を踏まえ、谷頭さんは「本社の方針としては、快くはないだろうなという気がします」とし、「ドンペンに対するイメージを抜いて、新しいドン・キホーテを作っていこうという意図があったとしてもおかしくないなとは思った」と分析している。
しかし、今回の騒動でドンペンの続投が決まったため、谷頭さんは「真意がどこにあったのかというのは全く分からず、僕の推測でしかない」と付言している。