コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻で、誤情報や偽情報(いわゆる「フェイクニュース」)の問題が深刻化するなか、欧州ではファクトチェック団体間の協力の枠組みが本格化しつつある。欧州の約30のファクトチェック団体を束ねているのが、欧州大学院(EUI)を中心に2020年6月に発足したコンソーシアム「欧州デジタル観測所」(the European Digital Media Observatory= EDMO)だ。
こういった枠組みが日本にも定着する可能性はあるのか。ジャーナリストの牧野洋氏が、ファクトチェックを支援する国内団体「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)と2022年12月6日に開いたオンラインセミナーで、現地情勢を紹介した。
プラットフォーム事業者など34社・団体が署名
オンラインセミナーでは、EDMO関係者が来日した際のインタビューや、EDMOの本拠地があるイタリア・フィレンツェの現地取材の結果を紹介した。
EDMOが発足した発端は、EUの行政執行機関にあたる欧州委員会が18年12月に策定した偽情報対策の行動計画。(1)偽情報の検出(2)一致協力した対応策(3)プラッフォーム事業者との連携(4)市民へのエンパワーメント、の4つが柱だ。その中で「行動規範」が制定され、プラットフォーム事業者や広告関係団体が署名したが、コロナ禍で偽情報が爆発的に増加し、「行動規範は役に立たない」という批判が続出。偽情報対策に必要なコミットメント(署名した団体・企業=シグナトリーが行わなければならないこと)が網羅されていない上、行動規範の順守を監視する仕組みがなかったことなどが原因だと考えられている。
このことを受け、欧州委員会は行動規範を改定する方針を決め、その実行部隊の役割を担ったのがEDMOだ。行動規範の改訂版は22年6月にEDMO総会で承認され、グーグル、メタ(フェイスブック)、ツイッターといったプラットフォーム事業者、ウェブサイトの信頼性を評価する機関「ニュースガード」、イタリアのファクトチェック団体「パジェラ・ポリティカ」など34社・団体が署名した。