岸田文雄首相は、今後5年の防衛費として「43兆円」と指示したが、この額は現実的なのか。
防衛費ではGDP比2%が先の参院選で公約になった。そもそもかつて仮想敵国1つでGDP1%だったが、今や北朝鮮、中国、ロシアと3つあるのだから、GDP3%でも不思議ではない。NATOという世界最強の同盟でGDP2%なので、日米同盟だけの日本でそれ以上の防衛力が必要だからだ。
いずれにしても43兆円とし、GDP比2%にやや届かない上に、その財源で現実的かどうか議論になっている。
使わない手はない外為特会
予算作りの一般論として、新規予算がある時、(1)他の歳出カット(2)建設国債対象(3)その他収入(埋蔵金)(4)自然増収(5)増税――で対応する必要がある。検討される順番は、それぞれの番号通りだ。
(1)は言うは易く行うは難し。カットされる省庁の反発が強いし財源として出にくい。
(2)建設国債対象経費にできれば有力な選択肢だ。財政法第4条第1項ただし書きでは、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については国債発行を認めている。一般会計予算総則で海上保安庁の船舶建造費が公共事業費として認められているので、海上保安庁の巡視船は建設国債で作られている。同じように防衛省予算を一般会計予算総則で規定するというのも有力案だ。これは安倍晋三氏の防衛国債構想だ。(2)ができれば、これで財源問題はおわりだ。
(3)その他収入増については、筆者がかねてから主張していた埋蔵金である。特に外国為替資金特別会計(外為特会)では円安による儲けがあるのでこれを使わない手はない。筆者から見れば、外為特会その他で40兆円程度の捻出は可能だ。小泉、安倍、菅政権はできたのに、出来ない理由はわからない。
実質的なポイントは
(4)自然増収は、もっとも真っ当な方法だ。来年度を見れば、円安でGDP増なので、法人税、所得税はかなり増収になる。その後も経済成長すれは、名目成長を4%程度にできれば、その自然増収で防衛費増をかなり賄える。ただし、財務省は成長はあてにならないとこの議論には乗らない。
(5)増税は、最後の手だが、財務省はこれが本命だ。いきなり増税とはせずに、「つなぎ国債」で当面泳いで、特別会計を設置するなどして、増税に結びつけるのが、財務省の得意戦略だ。東日本大震災のときに、復興費用を復興増税に持っていったときのやり方だ。
いずれにしても、実質的に(2)建設国債対象(3)その他収入(埋蔵金)がポイントで、当面これで決着がつけば、(5)増税とは政治的にはならない。
どうも今回は、少額の(3)埋蔵金を当てつつ、5年間はつなぎ赤字国債で泳ぎ、増税議論しないということで落ち着きそうだ。仮にそうだと、財務省は、防衛省要求48兆円から43兆円に減額した上、(2)と(3)を実質的に封じたのだから、サッカーの試合で言えば、財務省の前半1点リードだ。今後5年間の後半戦がどうなるか。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。