老舗出版社「廃業」誤情報はなぜ流れたのか 代表が明かした背景...騒動の裏にあった「善意」とは

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   詩集を中心に手がける東京・南池袋の老舗出版社「書肆(しょし)山田」が廃業するのではないかとの情報が一時ツイッター上に流れ、文学関係者から驚く声が上がった。

   その後、廃業との情報は正しくないと出版社から連絡が入ったと、投稿者が訂正する事態になった。現状について、書肆山田の鈴木一民代表に話を聞いた。

  • 書肆山田の公式サイト
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ツイッターでは、出版された本への思い出を語る人が続出

   朝日新聞の2021年2月5日付朝刊記事などによると、書肆山田は、1970年に山田耕一さんが立ち上げ、文学、思想、芸術の出版を始めた。7年ほど後に鈴木さんが代表を継ぐと、鈴木さんは主に営業を担当し、妻の故・大泉史世さんが詩集の編集を手がけ、著名な詩人らを育ててきた。

   ところが、大泉さんが22年5月19日に闘病の末に亡くなった。詩人らからは、大泉さんを悼む声が次々に上がり、小説家の池澤夏樹さんは、毎日新聞の7月13日付夕刊に寄稿し、1000点を超える本を世に送り出した大泉さんの功績を讃えた。大泉さんは、ブックデザインも手がけ、美しい装丁の詩集を作っていたという。

   その後、書肆山田の公式サイトは、8月15日を最後に更新がなかった。そして、11月26日ごろになって、ツイッター上で書肆山田が同月末にも廃業するのではないかとの情報が駆け巡った。

   最初の投稿は、文学関係者らから次々にリツイートされ、驚きの声が上がった。それとともに、出版された本への思い出を語る人が続出し、「閉じてしまうのは大変残念」「ウソであって欲しい」といった悲痛な声も漏れた。

   ところが、28日になって、最初の投稿者が出版社から正しくないとの連絡が入ったと明かし、廃業は決まっておらず、あいまいな情報だったと謝罪したうえでツイートを削除した。これに対し、「やれやれ、嬉しや」との声が上がるとともに、リツイートについて次々に謝罪があった。一方で、出版社の現状がよく分からないため、今後を心配する声も出ていた。

「詩人たちは、これから新しい出版社と出会ってもらいたい」

   廃業の情報について、書肆山田の鈴木一民さんは12月1日、J-CASTニュースの取材に対し、次のように説明した。

「まったくないというわけではありません。早晩、閉じざるをえないというのは確かです。大泉は、本づくりや原稿読みに携わって来て、他に編集者はいません。大泉の仕事が『書肆山田』でした。僕と二人三脚でやってきたもんですから、新しい編集者を雇い入れる気はございません。8月を最後に、もう新しい本は出てないんですね。個人出版ですので、いつかは閉じないといけないと思っています」

   大泉さんと2人で出版社を継いだとき、「どちらかがいなくなれば、辞めましょう」と約束したという。鈴木さんは、「これまでは、自転車操業のようにやってきただけです。詩人の方たちは、これから新しい出版社と出会ってもらいたいと思っています。今まで、読者の皆様にはお世話になってきました」と話した。

   廃業の可能性を投稿した人は、書肆山田から本を出しており、鈴木さんは、情報が流れた経緯をこう明かす。

「本人には、『11月までは何とか』と残務整理目標としてしゃべってしまったかもしれません。その前に、少しでも在庫が動けばと、よかれと思って善意で書かれたのではないかと思っています。後でそのことを聞いて、僕は驚きました。本人からはすぐに、『投稿は削除しました』と返事が来ましたよ」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)

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