人気洋菓子店「マダムシンコ」での"おとり求人"問題を受け、求職者に衝撃が広がっている。
大手求人サイトで「月給35万円以上(残業代含む)」と書かれていたものの、実態と乖離していたことが判明し、元従業員がマダムシンコの運営会社に労働審判を申し立てた。
同社の企業倫理やコンプライアンス(法令順守)が問われるとともに、求人サイトの信頼が揺らぐ事態にもなっている。求人サイト各社はどのような対策を講じているのか。
ページビュー稼ぎのため
マダムシンコの問題は、2022年10月に報じられて大きな関心を集めた。読売新聞によれば、求人サイト「インディード」を通じてマダムシンコの仕事に応募した元従業員が、募集内容に虚偽が含まれていたとして、運営会社「カウカウフードシステム」(大阪府)に対し未払い賃金の支払いを求めて大阪地裁に労働審判を申し立てた。
求人ページには「月給35万円以上(残業代含む)」と書かれており、採用面談でも相違ないか確認したものの、入社後に誇大広告だとわかった。
毎日新聞の11月28日の報道によれば、カウカウフードシステムには25日付で約90万円の支払いが命じられた。会社側は「インディードの広告は閲覧者を増やすためで、給与額を高く表示しただけに過ぎない」と反論したという。
SNSでは運営会社への批判が相次ぐとともに、求人サイト側のチェック体制を問う声も見つかる。
インディード「大変遺憾に思っております」
厚生労働省が21年に実施した調査では、過去3年間に人材サービスを利用してトラブルにあった人は6割いた。そのうち、「求人企業の募集条件と実際の就業条件が違った」が4割を占めた。
22年10月からは職業安定法が改正され、求人サイトでの「虚偽の表示・誤解を生じさせる表示」を禁止した。例として、(1)モデル収入例を必ず支払われる基本給のように表示(2)固定残業代を採用する場合に、基礎となる労働時間数などを明示せず基本給に含めて表示――を挙げている。
求人の質はサイトの信頼に直結する。大手求人サイトを運営するリクルート、マイナビ、ビズリーチに11月29日、媒体方針を尋ねると、いずれも求人の審査はしており、虚偽が発覚すれば掲載取りやめなどの措置を取るという。「doda」などを運営するパーソルキャリアは「当社は、マダムシンコ問題とは関係なく法令を順守し公正な運用を行っておりますが、具体的な内容については回答を差し控えさせていただきます」と答えるにとどめた。
リクルートは「求人広告掲載にあたっては、実際の労働条件と求人広告の内容が異なることの無いよう、営業担当から求人企業の労働条件を確認させていただいております。求人企業には、求人情報と、実際の条件が異なる事象が発生しないよう、求人情報掲載にあたっての啓発活動をしています。求人情報等の適正化を推進するうえでも、求人情報を取り扱う社員に対して『求人広告取扱資格』の取得を推進しております」と答え、ビズリーチは「成約報告(成約した場合は、年収情報などを必ずご報告頂くルールとなっています)等により、虚偽の求人情報等の記載を確認した場合は、利用規約等の定めに従い、個別に対応を致します」とする。
今回報道されたインディードも取材に応じた。同社はインターネット上にある求人情報をクローリング(収集)して自動掲出する方法と、求人企業が直接掲載する方法の2種類を採用している。いずれもシステムと目視で事前・事後チェックをしているという。不適切な内容を含む求人があれば掲載を取り下げ、専用窓口を通じて通報も受け付ける。
マダムシンコの問題は「大変遺憾に思っております」と回答し、「日頃より、サイトの求人掲載においては基準を設けて運営しており、掲載求人の定期的な確認も複数の方法を通じて実施しております。これに加えて、改正職業安定法の内容に沿って、利用規約の改訂、求人掲載のプロセスにおける注意喚起文言の追加を含む仕様の変更その他の対応を行いました。掲載基準等については、より求職者が安心安全にIndeedを利用していただけるよう、今後も継続して基準の見直しや強化を図ってまいります」としている。
業界関係者は、今回のように「悪質」な場合はプラットフォーム側の対策には限界があると指摘する。