ブロッコリーを海苔で切れる! 「形変えずやわらかくする」話題の調理家電、介護食の救世主になるか

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   一見、何の変哲もない茹でブロッコリーを海苔で切り分ける動画に、驚きの声が寄せられている。

   実はこのブロッコリー、見た目や味を変えず料理や食材をやわらかくする調理機器「DeliSofter(デリソフター)」で調理されたものだ。展示会での実演が話題となり、「噛む力や飲み込む力が弱った人たちを救う技術」だとインターネット上で大きな注目を集めている。

   開発したギフモ(京都市)は、パナソニック(東京都港区)発のスタートアップ企業。取材に対し、「家介護食のイメージを変える やわらかく食べやすく美味しい食文化づくりにもチャレンジしていきたい」と意気込む。

  • 宮下芳明教授が撮影した、海苔でブロッコリーを切断する動画
    宮下芳明教授が撮影した、海苔でブロッコリーを切断する動画
  • ギフモの代表取締役社長・森實将さん
    ギフモの代表取締役社長・森實将さん
  • フードテックグランプリに出場
    フードテックグランプリに出場
  • 宮下芳明教授が撮影した、海苔でブロッコリーを切断する動画
  • ギフモの代表取締役社長・森實将さん
  • フードテックグランプリに出場

「実際、舌でつぶして飲み込めた」

   注目を集めたきっかけは、明治大学の宮下芳明教授(先端メディアサイエンス学科)のツイートだ。「持続可能な食産業の実現」をテーマに開催された展示会「フードテックグランプリ2022」で、ギフモのデリソフターに関する発表を見て感動したという。ツイッターで動画を添えて次のように紹介した。

「フードテックグランプリで僕が一番感動したのは、ギフモ株式会社のDeliSofter。見た目と形を崩さずにやわらかくする調理家電。なんとブロッコリーを海苔で切断できる!実際、舌でつぶして飲み込めた。噛む力や飲み込む力が弱った人たちを救う技術。広まってほしい」

   デリソフターは、咀嚼や嚥下など食べる機能に課題を抱えている高齢者などに向けて開発された。本体は炊飯器のような見た目で、家庭料理や市販の惣菜、冷凍食品などの料理を、見た目そのままにやわらかくすることができる。

   動画には、デリソフターで調理されたブロッコリーが映されている。ただの茹でブロッコリーに見えるが、実はごく小さな穴が開いている。付属する専用のカッター「デリカッター」で、繊維が断ち切られているのだ。そのうえで、デリソフター本体による加熱・圧力調理が施されている。

「失われた食べ物の『形』がとても重要だった」

   取材に対し宮下教授は、ギフモのプレゼンテーションにも感銘を受けたと述べる。フードテックグランプリには、ギフモの森實将(もりざね・まさる)代表取締役社長が登壇した。営業活動で見聞きした話や開発者の体験談をもとに、介護食の抱える問題を紹介していたそうだ。

「僕自身も聴衆として泣いてしまうぐらい感動的なプレゼンテーションでした。きざみ食やソフト食を作るのには手間ひまがかかる上に、それを食卓に出しても『なぜ自分だけそんなものを食べなければならないのか』と怒鳴られて喧嘩になったりするというのです」(宮下教授)

   一般的な介護食は、ミキサーなどで砕いた専用のもので、家族の料理とは別に作られる。しかしその外見で食欲を失ってしまう人もいるという。手間暇をかけて料理した人も、食べる人にもストレスがかかってしまうというのだ。

「工学的に問題解決を考えると『咀嚼や嚥下が難しいなら、ミキサーで砕いたり刻んだりしてまた固めれば良い』と安易になりがちです。ですが、それで失われた食べ物の『形』がとても重要だったわけです。フードテックというのは、単に問題解決を行うだけでなく、人を幸せにする技術であるべきだと強く感じました」(宮下教授)

   宮下教授の投稿は1万3000件のリツイート、2万9000件の「いいね」が寄せられる反響を呼び、「介護現場でも導入出来れば喫食率が上がりそう!」「見た目変わらず柔らかくするっていい!」などと期待の声があがった。

   ギフモの森實代表によれば、SNSでの反響をきっかけに同社のウェブサイトは平常時の50倍以上のアクセスを記録。問い合わせも増加したという。

「SNSに寄せられたコメントを拝見し、技術面や家電ハードウェアへの関心よりも、やわらかく食べやすい料理を『つくる人』『食べる人』双方のお困り事やデリソフターがもたらす価値に共感いただく声が非常に多く感動しました」

「デリソフター」が開発された背景

   デリソフターは、介護食アドバイザーの水野時枝さんと小川恵さんがそれぞれの家庭の経験をもとに共同で発案したものだ。

   徳之島の大家族で育った水野さんの祖母・本郷かまとさんは、かつて世界最高齢者としてギネス記録を持っていた。116歳でこの世を去るまで、家族の手料理をほかの家族と同じように食べ続けていたという。水野さんは「そんな祖母を見ていると、人生最期まで家族と同じ食事を食べられる事は人生最大の喜びだと言う想いを持っていました」と振り返る。

   小川さんは2015年、誤嚥性肺炎によって嚥下障害となった父の介護食づくりに直面した。このとき、介護食は刻んだりペーストにしたりするのに時間がかかる上、作れない時に市販品を購入するとかなりの金額がかかると実感したという。

   そこで2人は、パナソニック社内のビジネスコンテスト「新規事業ゲームチェンジャーカタパルト」に介護食調理器のアイデアを応募。見事に勝ち抜き、デリソフターの製品化を実現した。

   苦労したのは、見た目を変えずに筋切りができる「デリカッター」の開発だったという。デリカッターは、熱と蒸気の通り道をつくるもので、「短時間での加圧水蒸調理」の実現に不可欠だ。

   水野さんと小川さんは「フォークから始まり軟化のデータ取りに時間を要しました。実際にパナソニックアプライアンス社の社員食堂メニューを日々実験して、軟化とカタチの写真取りを手分けして取り組みました」と振り返った。

介護食のイメージを変えたい

   デリソフターの魅力について、小川さんと水野さんは次の点を強調する。

「デリソフターの見どころと魅力は何といっても、同じテーブルで同じ料理を食べられる喜びで笑顔と会話が生れるところです。出来上がったお惣菜や中食・それぞれの家庭料理(食べ親しんだ)を味や形はほとんどそのままで軟化出来る商材です」

   現在は、嚥下や咀嚼が難しい高齢者だけでなくケアを必要とする児童らにも利用されているという。2人は「ご利用者様の『これなら食べられるわ』のお言葉を頂いた時は流石に感無量でした」と振り返った。

    森實代表は今後も、家族みんなが同じものを、同じ食卓で、いつまでも食べられることが当たり前の世界を目指していきたいと意気込む。

「『介護食を、ふつうのごはんの延長線上に』という 介護食のイメージを変える やわらかく食べやすく美味しい食文化づくりにもチャレンジしていきたいです。
そのためにはデリソフターというハードウェアに加えてレシピ等のソフト面、サービス面、更にタッチポイントを強化し掛け合わせて、より多くのお客様に寄り添い受け入れられる事業展開に尽力します」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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