影響を受けるのは「年収1000万円以下」の人だけではない
由高さんによれば、現在の漫画業界は深刻な状況に置かれている。漫画家の主な報酬は原稿料と印税で、人気作家であれば単行本の売り上げの10~15パーセント程度の印税を手にすることができる。しかし原稿料については長引く出版業界の不況のために、ここ数十年にわたりほとんど上がっていないという。
11月3~10日にかけて漫画業界で働くフリーランスを対象に行った調査では、1275件の回答中、半数以上の年収が300万円未満だったという。1000万円以上の収入があった人は8パーセント以下。インボイス制度導入の影響を尋ねたアンケートでは、「廃業する可能性がある」と回答した人が20.6パーセントだったそうだ。
特に作画作業を補助するアシスタントの状況はより深刻で、年収が200万円以下の割合は半数を占め、複数の現場やアルバイトなどを掛け持ちしないと生活ができない状況にあるという。
作家は出版社に対しては売り手だが、アシスタントに対しては買い手だ。作家が仕入税額控除を諦めるか、アシスタントが課税事業者になるのか。どちらが多くの税を負担するのか、これまで築き上げてきた関係性の中で相談することの難しさを、由高さんは涙ながらに訴える。
「漫画家側はアシスタントに課税を迫れない、負担をかけたくない。また、アシスタント側も先生に免税を迫れない、だからといって課税分を追うのも厳しい。
作家側からはアシスタントを心配するコメントも散見されました。アシスタントは一人の作品を長期間手伝い全力を尽くしてサポートしています。作家側も自分の原稿がどんなに大変になろうと、大半はアシスタントのデビューが決まれば喜んで送り出します。そのことだけでも分かってください!」
由高さんは会見後、J-CASTニュースの取材に対し次のように補足する。アンケートの結果、年収1000万円超えでもインボイス制度で廃業を検討している作家がいた。
「理由はやはりアシスタントの問題です。アシスタントさんを確保しないと原稿が完成できませんが、現状でもギリギリなのにアシスタントさんの課税を迫ることは難しく、廃業するしかないという意見が並びました。 漫画家は作品のクオリティーが高ければ高いほど、アシスタントさんが必要です。 人気漫画家になれるほどの実力があっても自分の作品が描けなくなれば、漫画家としてやっていけないから廃業するしかない。こんな悲しい現実があっていいのでしょうか?
夢も希望もない表現の自由すらある種奪っている、インボイス制度は悪法そのものです」