11月11日の「もやしの日」を前に、もやしの生産者団体が意見広告を出稿した。
「もう続けていけない」「窮状をご理解ください」――業界の苦しい状況を直截的に訴え、消費者からは驚きや同情が次々に寄せられている。何がボトルネックになっているのか。
「あまりにも安過ぎる」「勇気を持って値上げして」
もやし生産者で作る「工業組合もやし生産者協会」は2022年11月7日、日経新聞に全面広告を展開した。
もやしの日を迎えるにあたり、「これまで『もやし』を支えてくださったすべての皆様に心より感謝申し上げます」とお礼の言葉から始まり、青息吐息の現状を説明する。
「『物価の優等生』として家計に貢献できることはわたしたちの誇りでもありました。しかし、安さばかりを追求していては、もう続けていけない状況です」
「30年前と比べて、原料種子は3倍以上、最低賃金は1.7倍、様々なコストが上昇。一方のもやしの全国・平均価格は2割以上も下落しているのです。もやし生産者は8割減少し、今も減り続けています」
その上で、「もやしの未来のために 持続可能なサプライチェーンの実現のために もやし生産者の窮状をご理解ください」と大書で訴えた。
生産者の悲鳴は、多くの消費者に届いた。SNSでは驚く反応が複数寄せられ、「あまりにも安過ぎると消費者サイドとして思う」「勇気を持って値上げして欲しい」と価格転嫁を歓迎する向きが少なくない。
価格転嫁なぜできない?
協会の林正二理事長は9日、J-CASTニュースの取材に、広告掲載の背景について「今まで経営努力をしてきましたが、努力の限界です。色々な経費が上がり、単価も上がらない状況で次々と廃業者が出ています。今年も3、4のもやし屋が廃業しています。放っておくとさらに大変なことになる。こうした事情を知って欲しいと広告を出しました」と吐露する。
生産者は、機械化による人件費削減や、もやし以外の商品製造による物流費削減、歩留り率向上など、コストダウンに努めてきた。しかし、円安や原料価格の高騰で企業努力ではコストを吸収しきれない状況だという。
原料である種子の大半は中国からの輸入だが、現地の人件費増で2、30年前と比べると仕入れ価格は3倍以上に膨れ上がる。
それ以上に根深い問題が、小売り側との隔たりだ。一部で客寄せのために過度に安売りされ、メーカーの経営を圧迫している。広告は消費者へのメッセージでもあったが、もやしを扱う小売店への"連判状"でもあった。
改善に向けた方策は
「ご存じのようにもやしは安いイメージの商品ですよね。小売店としても我々の厳しい状況は理解しているのですが、店としては安く売りたい。そのため、値上げ要求に対し満額での返答が頂けないというのが現状です。そうした声が生産者から多数寄せられ、個別に交渉するのは限界があることから、広く知ってもらうために思い切って広告を出しました」
「(一般的に)スーパーの野菜売り場で一番買い上げ点数が多いのがもやしです。もやしを安く売ることは店の安さを演出する上で大きな効果になる。競合店との絡みの中でも高く売れない。みなが買うので1円でも安く売りたいという思いが小売り側にある」
協会では、これまでも値上げの必要性を訴えてきたが、大きな変化はないという。販売価格が上がらないことには、納品価格を上げるのは困難だと嘆息する。
林理事長が経営するもやし生産会社でも、今春から値上げ交渉をしている。8割は理解を示してくれたが、「必要最小限」の価格増で採算は依然厳しい。
林理事長は「もやしは消費者の皆様から愛されてきて、我々作っている業者からすれば大変な喜び。素晴らしいもやしを安定して届けたい思いが強い」と意義を強調する一方、もやし存続には生産者の努力はもちろん、「現在の窮状を理解いただき、安さを追求しない世の中になっていただければ嬉しい」と小売店と消費者へ理解を求めた。