語学テキストなどを手がけるアスク出版(東京都新宿区)は、2010年から販売している日本語能力試験の教材に家庭内暴力(DV)を思わせる描写があったとして、22年11月7日に公式サイトなどで謝罪した。今後、内容を変更するとしている。
「また父さんに殴られたの?」
内容を変更するとしたのは、外国語を母語としない人に向け実施されている日本語能力試験のテキスト「日本語総まとめ N3 読解」の「英語・中国語・韓国語版」(初版第1刷10年)と「英語・ベトナム語版」(初版第1刷15年)の80ページと81ページ。
日本語の文章の「事実」と「筆者の気持ち」を区別するという趣旨の課題で、息子と母とみられる家族の会話が題材に用いられていた。息子が「母さん、顔どうしたの?また父さんに殴られたの?ひどいあざだよ」と問いかけ、母が「ああ、でも、大したことないわよ。お父さんね、今仕事が大変なのよ」と応じると、息子が「だからって、母さんに暴力を振るうなんてひどいよ」などと返し、2人の会話が続いていく。
次のページでは、息子とみられる人物が、亡くなった父親の記憶を振り返る文章が掲載されていた。「父はぼくたち家族の生活のことはまるで考えず、母は本当に苦労をしてきた。気に入らないことがあるとすぐに母に暴力を振るった。食事がまずいと皿を投げられ、真夜中に酒を買いに行かされ、それでも母は文句一つ言わない。なぜそこまでがまんをするのだろうと不思議に感じていた。父の作品が賞をとり、海外で紹介されてからは、生活に困ることはなくなったが、やはり酒と暴力は変わらなかった」などと書かれている。
「決してDVや暴力を肯定する立場にはございません」
これらの描写について、アスク出版は7日の発表で、「『暴力を肯定している』と解されかねない場面の文章が掲載されており、教材として適切でないとのご指摘をいただきました」と説明。「読者の皆様にご不快な思いをさせてしまい、ご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫び申し上げます」と謝罪した。
同社は、10年の出版時に在籍していた編集部員が、22年11月現在で全員退職していることから「当時どういった状況で発行に至ったのか、制作におけるチェック体制は適切であったかなど、詳しい経緯をどうしても把握できておりません」とする。
同社は「著者はもちろん弊社としましても、決してDVや暴力を肯定する立場にはございません」としつつ、「誤解を生むような文面であったことを重く受け止め、全面的に内容を変更する」と説明。また再発防止策として「編集部の意識を一層強化し、細心の注意を払って制作する」「教材としてふさわしい内容であるか、読者のみなさまにご不快な思いを与えてしまうような表現はないかを、制作段階から複数名で確認する体制を徹底する」と伝えた。