部屋を掃除していると、ふと思い出の品が出てくることがある。そして、それが思わぬ形で注目を集めることも。ツイッターでは、ある母親が我が子の授業参観の様子を写し取ったスケッチが注目を集めている。
ペン一本で生徒たちの様子を描きとったスケッチで、何気ない子供たちのしぐさや机にかけられた雑多な荷物などが描かれている。娘が掃除中に見つけたとして投稿すると、ツイッターでは、「見てる側の愛が見える」「写真より雰囲気が伝わって良いかも」といった声が寄せられた。
スケッチの作者は水彩画家の小野月世(@tsukiyo_ono)さん。子供たちとの会話のために、もらったプリントの裏などに授業中の様子を描き残していたのだという。
「A4コピー用紙にペン一本で下描きなしの一発描きです」
スケッチは、小野さんの娘が部屋を片付けていた時に発見したという。娘はツイッターでスケッチを紹介し、「この子は誰とかなんとなく分かる」と感想を述べた。この投稿が12万いいねを超える反響を呼んだことを受け、小野さんも2022年10月18日、授業参観のスケッチをいくつかを公開した。
「授業内に描き終わる為、A4コピー用紙にペン一本で下描きなしの一発描きです。高校卒業で参観記録も終わりましたがいい思い出になりました」
頬杖をついたり足を組んでいたり、生き生きとした生徒の姿が描かれている。机の上のノートや教科書、机わきの通路に置かれた鞄などもある。描き込みが多くはない素朴なスケッチでありながら、教室の空気感がありありと伝わる印象だ。
小野さんの投稿したスケッチには8000件のリツイート、5万8000件の「いいね」を超える大きな反響が寄せられた。ツイッターでは「教室のざわめきや表情、手早い的確な描線すごすぎる」「白黒なのに温もりと色が勝手に浮かんでくるような素敵な絵ですね」「なんか懐かしい気持ちになった」といった声が寄せられている。漫画家の江口寿史さんも、引用リツイートで「母、うっま!!」とコメントした。
担任の先生も大喜び
取材に対し小野さんは、「授業参観の際、帰宅後の子供との会話のためにその時の授業風景をスケッチしておいたのがきっかけです」と振り返る。学校では写真撮影が禁じられていたそうで、もらったプリントの裏側にスケッチで子供たちの姿を残すようになった。
子供たちが小学生の頃は参観する保護者も多く、限られた狭い場所から見るため、簡単に手元でメモを取るように描いていたという。グループワークなどで子供たちが向き合う際には「色んな向きの子供たちが描けて楽しかったです」と振り返る。
「描き始めは自分の子を描いて、後はその周囲を時間内に描けるところまで描く感じです。描いてて分かるのは小学生はもちろん、おとなしく授業を聴いているような高校生でもかなり動いていることです。
右手に持ったペンを左手に持ち替えたり、頬杖をついた手を替えたり、ふり向いたりうつぶせになったり...。私が描き終わる前にもう別のポーズになっていることが多く、その一瞬一瞬を記録したいと思って描きました」
スケッチは、40分から50分ほどの授業時間内で描き終える。小野さんによれば、授業が始まって教室が落ち着いてから描き始めるため、実質的な作画時間は30分ほどだという。教室移動や小テストが始まるとクラスの雰囲気が変わるため、そこで描き終えることもあったそうだ。
小野さん家ではいつしか、授業参観でスケッチをとることが当たり前になっており、娘は帰宅時に「描けた?」と言って見に来るようになったという。できた絵を友達や担任の先生にも見せて回り、喜んだ担任の先生は廊下にコピーを掲示したこともあったそうだ。
「子供たちの一瞬一瞬を大切に記憶に残しておいて良かった」
小野さんのスケッチは、もらったプリントの裏だったり、どこかに挟まってしまったりして行方不明になってしまったものも多いという。娘が手元に残ったわずかな絵を発見し、久々に思い出したそうだ。
「娘が高校を卒業して4年経ちますので、そのことはすっかり忘れていましたが絵を観るとその時の記憶が面白いほど蘇ってきました。描くためにはしっかり観察して描かないといけないのでその時の子供たちの動きや気配や音まで、脳内で動画を再生するように思い出されます」
学校で写真が禁じられていなければ、ここまで注意してに様子を観察できていなかったかもしれないとして「あっという間に大きくなる子供たちの一瞬一瞬を大切に記憶に残しておいて良かった」と振り返った。
娘は、ツイッターでスケッチを紹介した後「お母さんの絵、Twitterにアップしたよ」と報告してきたという。小野さんは「あまり私との関係を他の人に言いたがらない子なのに珍しいな」と振り返る。
小野さんによれば、親子仲は「とても良い」と考えているという。娘は現在、美術大学に通っており、水彩画家である小野さんにアドバイスを求めてくることもあるそうだ。
「娘は絵は好きでしたが高校2年で進学を考えたときに美大に行くことを視野に入れたようです。私自身、両親が高校の美術教員でしたので、むしろ進路はあまり強制したくないとの思いがあり、本人の希望に任せましたが、今は絵描きになりたいようです」