兵庫県警が作成した「雑踏警備の手引き」が、韓国・梨泰院での転倒事故を契機に関心が高まっている。
雑踏事故の防止策などを列挙しており、その1つに時差退場による密集の分散を挙げる。例として、プロ野球・阪神のファンが勝利後に歌う「六甲おろし」が紹介されている。
ハード・ソフト両面での対策重要
手引きは、兵庫県明石市での2001年7月の歩道橋事故後に作られた。花火大会の見物客が押し寄せて群衆雪崩が発生し、11人が死亡、229人が負傷する大惨事だった。
雑踏警備の意義や注意点、「無責任性」「暴力性」といった群集心理、過去の事例の教訓などが掲載されている。兵庫県警のウェブサイトで全文公開している。
韓国ソウルの繁華街・梨泰院で2022年10月29日夜(現地時間)、154人が死亡した転倒事故を受け、SNSでは手引きへの言及が急増している。
中でも「群衆の制御方法」は注目度が高い。雑踏事故を防ぐには、ハード面、ソフト面での対策が重要になるという。
前者は、トンネルや橋、階段、袋小路のような逃げ場のない空間が危険だと指摘する。リスクを減らすためには構造物を改良する必要があり、難易度は高い。2005年の愛知万博では基礎設計時に安全対策の申し入れがあり設計変更した。
ソフト面の対策は、ハード面のリスクを減らす役割となる。
ソフト面の7つの工夫
ソフト面の工夫として、次の7つを示している。
(1)「人を常に動かす。しかもゆっくり。動かしてさえおけば、相当大きな群衆も怖くない」
(2)「人の流れをぶつからせない。一方通行が大原則である」
(その局所的な技法として、警備員が人垣で誘導したりロープで区分通行させたりするのも有効である。また現地へのアクセスが一方通行であることを事前の広報、当日のアナウンス、事後の誘導によって周知徹底させることが肝要である)
(3)「群衆密度を減らす。そのために入り口で入場制限をしたり、意識的に遠回りさせたり、ローピングの技法で蛇行を行わせて導線を長くする」
(4)「待たされている群衆の気持ちを逸らす工夫をする」
(例えば縫いぐるみなどのキャラクターを登場させて、群集の注意をそちらに向けるのも有効である)
(5)「滞留を防ぐために、群集の流れの中で停止したり群れをなしている人を排除する」
(好奇心の対象(例えば花火や夜店など)があるために人が滞留する場合には、その対象を他へ移動させるか、またはそれを見えないように目隠しをする必要がある)
(6)「必要な情報はできるだけ豊富に与えるが、複雑な情報、不必要な情報は与えない」
(情報は言語的なものだけでなく、混雑状況を示すテレビモニターなども有効である)
(7)「時差入場、時差退場を行って、群衆密度を時間的に分散させる」
野球ファンの「二次会」に意外な効果
7番目の「時差入場、時差退場を行って、群衆密度を時間的に分散させる」ための手段として、「催しの終了後、一部の人を溜めておくような小さなイベントを行うのが有効である」としている。
その例として、甲子園球場での阪神ファン名物「六甲おろし」が記されていた。
阪神に限らず、プロ野球では贔屓チームの勝利後、スタンドのファンが応援歌を熱唱する慣行がある。「二次会」とも呼ばれ、これがおのずと時差退場につながるようだ。
ツイッターでは野球ファンを中心に「そういう効果あったのか」「六甲おろしの話、目から鱗 少しずつの人の流れを作るって重要だね」と感嘆が漏れ、「ヒロイン(ヒーローインタビュー)もその役割担ってそうだよな」「バッティングしたら喧嘩しちゃうかもしれないしね」といった意見が併せて寄せられている。
該当するとみられる他の事例も次々と書き込まれている。手引きでは、大相撲の結びの一番の後にある「弓取り式」も紹介していた。
「ライブとかで終了後にも音源流すのもこれなのかな?結構な人数がその場で歌ってたりするし」「サッカー(Jリーグ)だったら、試合後の選手のゴール裏への挨拶回りがそれにあたるのかな」「競馬の最終レースがメインじゃ無いのもこの理由でしょうね」「映画のエンドロールもそういう効果あるね」