暢子は朝ドラのヒロインらしくなかったし、他の登場人物も「らしく」なかった?
「テレビ番組のアンチが可視化される」という、SNS全盛のこの時代を象徴するかのような出来事が起きていたと語った木俣氏。
「ちむどんどん」はストーリーに対してはもちろん、主人公を含む4兄妹についても視聴者がさまざまな意見をSNSにアップしていた。その中には、主人公たちの性格に関する厳しい声も多々見られた。
木俣:視聴者の皆さんが朝ドラの主人公や、その脇を固めるキャラクターに対して「こうあってほしい」と思う人間像に、「謙虚で利他的な姿」というものがあります。しかし、比嘉家の人々は、大森南朋さん演じる父親・賢三以外の人々は自己主張が強く、自分自身を最優先しがちでした。ドラマ開始直後は比嘉家の中で優等生的な立ち位置にいた、川口春奈さん演じる良子ですら第34回では自身の縁談を直前になって破談にしてしまい、最終的には我を通すことを選びました。このような姿を見た視聴者としては、やはり、「ん?」と思ってしまったのではないでしょうか。そのことに関して制作者側がもう少し情報発信をしていたら、なるほどそういう意図があったのかと収まったかもしれません。自由に見てもらおうというお気持ちだったのだとは思いますが。制作者がこういうふうに見てというのもやりすぎると好まれなくなることもありますから。
――他に、「ちむどんどん」に対して視聴者がイラついてしまった要素はあるでしょうか?
木俣:主人公一家たる比嘉家の人々のお金の扱い方が、物語の中でどのような意味を持つのかという描写が不十分で視聴者からの不興を買ったという面はあると思います。お金に関するトラブルの多くは竜星涼さん演じる長男・賢秀が起こしていましたが、賢秀というキャラクターは、沖縄の男性にありがちとされるおおらかな性格を表現する役割を担っていたようにも感じられるので、賢秀のお金に対するルーズさもその一部のように描かれていたのかもしれませんが、そこは切り分けて見せてほしかった気がします。
――では、これらの不満の声が出ないようにするにはどうすれば良かった?
木俣:朝ドラでは、2015年度後期の「あさが来た」のように、主人公姉妹の性格や環境を正反対にして、姉が忍耐するタイプなら妹は自由奔放のような役割分けを行うという手法がよく取られます。ところが、「ちむどんどん」は4兄妹おしなべて自分を通す性格でした。上白石萌歌さん演じる三女の歌子が病弱で控えめなのかと思ったら彼女も仮病を使って意思を通すなどちゃっかりしていたので戸惑った視聴者もいたようです。あくまで外野の考えですが、自己主張の強い人物と謙虚で利他的な人物を混在させればバランスが取れたような気がします。
――暢子に関しては、作中でたびたび本人が放つ「まさかやー!」がうるさいという、「主人公が大声で驚きすぎ」的な批判も多く寄せられました。
木俣:「まさかやー!」は登場人物に対して決め台詞を与えることで、キャラクターを際立たせる役割もあったと思います。舞台となっている地域で使われている言葉でキャラ付けした例で大反響を呼んだ例としては、「あまちゃん」の「じぇじぇじぇ」があります。