安倍氏との「密会」なぜ告白? 野田元首相が追悼演説に込めた思い「ストレートには書けなかったけど...」

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   野田佳彦元首相が2022年10月25日の衆院本会議で行った安倍晋三元首相の追悼演説では、安倍氏が首相に返り咲いてから一度だけ首相公邸で「密会」したことが明かされた。1時間にわたって話し合われたテーマは、当時の天皇陛下(今の上皇さま)の退位に向けた環境整備についてだった。この出来事は「政府だけで決めきるのではなく、国会で各党が関与した形で協議を進める」ことの重要性を示すことになった。

   野田氏は同日夜に出演した「プライムニュース」(BSフジ)で、自らも参列した国葬が行われるまでの拙速さを指摘。「ちょっとこれはストレートに書けなかったんですけど、そういう思いを込めて(天皇の退位等に関する)皇室典範特例法の経緯を書かせていただきました」と明かし、与野党が合意形成に向けて努力することを求めた。

  • 衆院本会議で追悼演説に臨む野田佳彦元首相(写真:つのだよしお/アフロ)
    衆院本会議で追悼演説に臨む野田佳彦元首相(写真:つのだよしお/アフロ)
  • 歴代首相とともに国葬会場に姿を見せた野田佳彦元首相(写真右上)
    歴代首相とともに国葬会場に姿を見せた野田佳彦元首相(写真右上)
  • 衆院本会議で追悼演説に臨む野田佳彦元首相(写真:つのだよしお/アフロ)
  • 歴代首相とともに国葬会場に姿を見せた野田佳彦元首相(写真右上)

「闊達な議論をして、一致点を見つけ出していく作業をしたかった」

   演説によると、2人がひそかに会ったのは17年1月20日。当時の様子を次のように述べた。

「そして『政争の具にしてはならない。国論を二分することのないよう、立法府の総意をつくるべきだ』という点で意見が一致したのです。国論が大きく分かれる重要課題は、政府だけで決めきるのではなく、国会で各党が関与した形で協議を進める。それは、皇室典範特例法へと大きく流れが変わる潮目でした」
「立場の違いを乗り越え、どこかに一致点を見いだせるのではないか。以来、私は、そうした期待をずっと胸に秘めてきました」

   野田氏は番組でも、改めて「もうちょっとお互いにいろんなテーマについて、闊達な議論をして、一致点を見つけ出していく作業をしたかったなと思いましたね」と思いを吐露し、今の政治に足りない点として

「ちょっと政党間の対立が激しく、それが国民の分断に繋がってしまっている。時には一致点を見出す合意形成をどうするかという努力をもっとしなきゃいけないのではないか」 などと話した。

「ねじれ国会」の党首討論は「戦う場というよりも、どうやって一致点を見出すか」

   野田氏にとって安倍氏が「最も鮮烈な印象」を残したのが、12年11月14日の党首討論だ。首相だった野田氏が自民党総裁だった安倍氏に対して解散を明言。その後の衆院選で民主党は大敗して下野し、第2次安倍政権の成立に道を開くことになった。野田氏によると「与党と野党第1党の党首同士が、互いの持てるすべてをかけた、火花散らす真剣勝負」だった。それから10年、与野党の合意形成に向けた努力が減っていることを指摘した。当時は、与党の民主党が参院で過半数を取れない「ねじれ国会」で、「野党第1党、第2党の協力も仰がないと物事が進まない」状態。そのため、党首討論は「戦う場というよりも、どうやって一致点を見出すかというところに心を砕いた」。

   だが、「一強多弱」の現状では「なんとなく一気呵成に何か物事を決めてしまう、丁寧さが欠ける、ということになっているんだろうと思うんです」。その一例として挙げたのが国葬だ。野田氏も「自分の人生観に基づいて」参列したが、「ただ、プロセスには問題があったと思います」。具体的には次のように述べた。

「各党が関与した形で協議を進めて、そして総意を作っていくというプロセスがなかったと。やっぱり、国権の最高機関である国会を完全に無視して、政府だけで決めるというやり方には、私はあまりにもちょっと粗雑すぎた、拙速すぎたと思うんです」

   さらに、佐藤栄作氏が吉田茂氏の国葬を行った際の対応を念頭に、

「あのときも、野党の人たちに頭を下げて、出席してくれと。あの大宰相が頭を下げてやってるんですよ。そういうことが全くなかったでしょ?私はこれはやっぱり、もちろんね、(一強)多弱の弱い野党にも責任があるけど、でも、あの佐藤栄作さんだって頭を下げてやったぐらいのことを、なぜ岸田さんはやらないのか、という思いも込めて...。ちょっとこれはストレートに書けなかったんですけど、そういう思いを込めて皇室典範特例法の経緯を書かせていただきました」

「自虐じゃなくて、『かませ犬で終わらないぞ』という気合いを込めて」

   演説への決意をつづった10月17日付のブログも話題になった。中でも注目されたのが

「長期政権が誕生するきっかけとなった因縁がある上に、その最期にも立ち会う運命になるとは...。安倍氏にスポットライトを当てるための政治人生です。『かませ犬』みたいです」

という一節で、「かませ犬」という表現には「自虐的」だという声も出た。

   野田氏はこの見方を否定。野田氏はプロレスファンとして知られ、「(アントニオ)猪木さんのお通夜に行った後に思い浮かんだんですね」。この「かませ犬」は、1982年に格闘技の「聖地」として知られる後楽園ホールで、長州力さんが先輩の藤波辰爾さんに向けて「俺はお前のかませ犬じゃないぞ!」と言ったエピソードを指している。野田氏は「かませ犬」の意味を

「そこから彼はブレークして、一派を率いて、一皮むけた立派な素晴らしい一流レスラーになっていくんですよね。私は自虐じゃなくて、『かませ犬で終わらないぞ』という気合いを込めて、今回の追悼の原稿をしっかり書いていこう、という意味だった」

と説明。反省気味に

「プロレスファンじゃないとわからないメッセージだったので、解説が必要だった」

とも話した。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)

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